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第26話
しばらくして運ばれてきた料理たちに、僕は喜びが隠せないでいた。
テーブルの上に乗っている、湯気が立ち上るパスタ。
外食自体あまりしないから、記憶に残るあの寂しい景色がいつまでも消えなかった。
それでも、今は。
「あははっ、ふーちゃんの目きらきらしてる。食べよっか」
目の前で微笑むあさひさんの記憶が重なっていく。
モノクロの思い出が、色鮮やかな“はじめて”に塗り替えられていく。
嬉しいからと涙が出そうになるのは、何度目だろうか。
「この後、服でも見に行こうかなって思ってるんだけど……いい?」
「はい。連れて行ってください」
あさひさんの行きたいところについて行けるのが嬉しかった。
連れて行きたい、と僕のことを考えてくれるのが嬉しかった。
*
「いらっしゃいませー」
お昼ご飯の後に訪れたお店は、小さいけれど服が溢れていて。
さわやかで柔らかい色から、パキッとしたものや柄の強いものまでたくさんあった。
パッと見て思ったのは、あさひさんに似合うタイプのものが多いな、と。
「店長、こんにちは」
「美作さん! 先日はありがとうございました」
「こちらこそ、続けて俺を使ってくださるのでありがたいです」
ぺこぺこと互いに頭を下げる店長さんとあさひさん。
あさひさんの後ろからそっと顔を出すと、店長さんは少し驚いた顔をする。
「あれ、お友達ですか?」
「俺の恋人です。今日デートなので」
「えっ、あさひさん!?」
「そうだったんですね。どうぞお二人ともごゆっくり」
店長さんは柔和な笑みを浮かべ、そのまま奥に行って仕事に戻る。
むしろ驚いてしまったのは僕の方で、言葉が出なかった。
なんであんな風に店長さんは普通でいられるんだろう、とか。
あさひさんは僕を恋人だっていうのは恥ずかしくないのか、とか。
聞きたいことは、何個かあるのに。
「ここ、前に言った昔から好きな店なんだ。店長とはよく話すから、俺のこともよく知ってるし、ふーちゃんのことも話しててさ」
「店長さんは、その……」
「俺らのことに関しては、別に嫌ってはないよ。俺が両方いける質だって前から知ってるんだ」
どこか懐かしむようにそう話すあさひさん。
表情と声の穏やかさから、店長を慕っていることが伝わってくる。
「今日はさ、ふーちゃんに俺のこと知ってもらいたかったんだ」
あさひさんが僕の頭を撫でる。
「俺の好きなもの、好きな場所。少しだけでも教えたかった。いつもふーちゃんから聞いてばかりだったから」
「僕、教えてもらえてすごく嬉しいです。あさひさんのことが、もっと知りたい」
出会った時よりも大きくなっている、この思い。
迷惑じゃないのなら教えてほしい。
同じものを好きになれたら、それはとても幸せなことだと思うから。
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