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第27話

それから店の中を回り、あさひさんはパッと僕に似合いそうと何着か服をあてがってくれた。 僕の好きな、ゆったりしたシルエット。 自分では絶対選ばないような色でも、あさひさんが選んでくれたものを鏡で見れば、なんだかしっくりくる。 知らなかった似合う色と出会い、気分が上がる。 「割と深い色がいいなぁ……やっぱりこれとか、めちゃくちゃ似合ってる」 よし、とあさひさんは試したうちの悩んだ2つ服を持ったまま会計に行く。 されるがままの僕だったけど、そこであさひさんの袖をつまんだ。 「ま、待ってください。あさひさん、それ」 「ん? 今日の御礼、と思い出? 初テートだし、今日は俺にやらせて」 僕の横をするりと抜けて、あさひさんはカウンターに服を置いてしまう。 てきぱきと会計を済ませる店長さんに口をはさめず、あまり言ってもあさひさんに悪いし…… さっと袋を持って俺の手を引こうとするあさひさんを、思わずじっと見つめてしまう。 「そんな顔しないで……って言っても、ふーちゃんは気にする子だもんなぁ」 「嬉しいんですけど、同じくらい申し訳なくて」 「じゃあさ……」 あさひさんは僕の腰を引き寄せ、耳元に口を寄せる。 「帰ったら、ふーちゃんに頑張ってもらおうかな」 「な、にを……?」 「しよ、ふーちゃん。俺に思いっきり、愛されて」 耳たぶにキスをした後、あさひさんの吐息が遠ざかる。 しよって、愛されて、って…… きっと、僕の考えていることは間違いじゃない。 お腹の奥がむずむずして、唇を噛んで頷いた。 それから僕は手を引かれ、あさひさんのお家へ。 * 荷物を置いて、クーラーをつけたあさひさんはゆっくりを俺の腰に手を回す。 熱い中歩いた二人の身体は、熱いまま。 あさひさんの首筋の汗が視界に入って、不意に胸がきゅんと音を立てた。 「あっつー……」 「あさひ、さん。まだ僕、何も準備してな、っ!」 「いいよ、今日はそこまでしないから。ただ、俺の言うこと聞いて?」 話している間、つーっとあさひさんの手が背を伝う。 ぞわぞわして、でも嫌な感じはしなくて。 「俺、使うものちょっと取りに行ってくるから。Stay(待ってて)、座っていい子にしてて」 離れたあさひさんの温度が、少し寂しい。 部屋から出る背を目で追いながら、ぺたりとその場でKneelの姿勢をとる。 何をされるんだろう、ぼんやりとした疑問は期待も含んでいて。 ドアから目を離せずに、一瞬の待ち時間を長く感じていた。 「お待たせ。ちゃんと待っててくれたんだね」 僕の頭を撫でて、あさひさんは横を通り過ぎソファーに座る。 にこりと綺麗に口角の上がった口は、「Come(おいで)」と告げた。 這うようにその足元に近づいて、あさひさんを見上げる。 「初めてだし、今日は優しくするから」 そう言って、あさひさんは細身のネクタイを取り出した。

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