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第28話
「そ、れ……?」
どくどくと早くなる心臓に、震える声。
少しの恐怖と、溢れ出る期待が僕の頭を支配しようとしてくる。
「文弥の腕縛るから、手出して」
相変わらず柔らかな表情のまま、あさひさんはそう言う。
躊躇いなんかなく、僕は両手を揃えて差し出した。
「いい子」と吐息に混ぜてあさひさんが僕を褒めてくれる。
ぶるり、と奥から登って来る感覚に体が震えた。
いい子、僕、いい子だから。
「震えてる……怖い?」
「怖くない、です。大丈夫だから……」
早く、そのネクタイで僕の腕を縛って。
僕の震える手を包み、あさひさんは心配してくれる。
でもこれは、縛ってもらえる嬉しさと、何をさせてもらえるんだろうって待ちきれないのと。
単純に言えば、興奮しているから。
じいっとネクタイを見つめ、少し上がって来る呼吸に口元が緩んだ。
僕を見たあさひさんは、珍しく片方の口角だけを上げて「わかった」と。
そして手際よく巻かれた布に、僕の腕の自由は奪われた。
「あまりキツくはしてないけど、どう?」
「ふ、ふ……大丈夫です」
漏れ出る笑い声は、少し満たされた証。
でも、これからもっと。
「なに、するんですか?」
「……んー……俺の気がすむまで、触らせて」
「Come」とあさひさんが腿を叩いて言う。
頷いてから立ち上がって、あさひさんの腿の上に座った。
満足そうなあさひさんは、僕の顎の下をすりすりと撫でてくれる。
それが終わると片手を腰に回されて、もう片方は頬から腹までつーっと指が伝っていく。
脇腹を触られて、思わず体が跳ねてしまった。
「くすぐったい?」
くすくすと笑いながら、あさひさんは尋ねて来る。
無言で頷けば、くすぐったいところを何度も撫でられて。
くすぐったいのに、それとは違うぞくぞくした気持ち良さもあって。
唇を噛んでも、時々詰まる吐息が隠せない。
あさひさんの唇が、そっと閉じられた僕の口を開けようとする。
抵抗なんてしたくなくて、それに応えるように口を開いた。
熱い舌が、僕の舌を迎えに来る。
キスの間の呼吸なんて、慣れていなくて。
我慢しきれない声と、必死に息を吸おうとする引きつった音。
「苦しい」と言葉に出来なくて、両手でそっとあさひさんの胸を押した。
それに気付いたのか、あさひさんはゆっくりとキスをやめて最後に下唇を甘噛みする。
「ごめんね。でも、苦しいのも気持ちよかったんじゃない?」
「は、い。あつくて、溶けそうで……きもち、よかったです」
あさひさんは僕の口端を拭いながら問いかけてくる。
でも、問いかけと言うには少し確信めいていた。
僕を見るあさひさんの顔は余裕が見え、心なしかいつもより艶っぽくて。
口調こそ優しいけれど、自分が相手に与える側だと分かっている顔だ。
「ここ、もうこんなに硬くしてるの?」
「え……? あっ、やめて」
気付かなかったそこに服越しに触れられ、一気に体が熱くなった。
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