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第33話

――… いつもの通り、カフェでの仕事をこなしている時だった。 カランと軽いベルの音と共にやってきたのは、目を見張るくらいの美人さん。 その人が歩いた後には、ふわりと甘いバニラの匂いが残っていた。 席に案内して、座るとすぐに「アイスコーヒーひとつ」とスマートに注文をする。 内心焦りながらもコーヒーを入れ、ミルクとスティックシュガーを持ってお客さんのところへ。 お待たせしました、と声をかけると笑いかけてくれた。 「きなりくん! あのお客さんすっごい綺麗!」 「……ホント面食いだよね」 カウンター裏に戻ってから、きなりくんに小声で報告。 はぁ、ときなりくんはわざとらしく溜息をついた。 面食いなのは自覚がないわけじゃないけど……今回のお客さんは本当に綺麗だった。 透き通るくらい白い肌をしていて、声も鈴の音みたいに澄んでいて。 ああいう人に男の人は惹かれるんじゃないか、って。 そのあとはしばらくお客さんが来なくて、仕事が落ち着いていた。 美人さんをちらっと横目で見ると、腕時計を気にしていて、窓の外に少し不安そうに目を向けている。 多分待ち合わせなんだろうな、と思うとほっこりしてしまった。 僕も店の時計を見て、あさひさんももうそろそろ来るって言ってたよなぁと思い出す。 今日は仕事が休みで、エステに行ってからカフェだー!と。 しばらく続いた休みの後、どっと仕事が舞い込んできたらしい。 新しい仕事もあるみたいで、最近忙しそうにしていた。 夜はたまに会っていたけれど、疲れているのかあさひさんはご飯の後はすぐ眠ってしまって。 今が踏ん張りどころ、と励ました4日前から会っていない。 来るかなとドアに目を向けたら、丁度ベルが鳴る。 そこを開けたのは、眩しいくらい笑顔のあさひさん。 「いらっしゃいませ」 「こんにちは。はぁー……会いたかった」 ぽそり、と後半声が小さくなっていたけれど確かにそう言っていた。 カウンターに案内してメニューを渡すと、期間限定の文字を見つけてあさひさんの目がキラリと輝く。 「すだちのシャーベットかぁ。じゃあこれと、アイスティーひとつ」 弾んだ声でそう言うあさひさんは、にっこにこだった。 こんなに緩んだ顔はあんまり見ないよなぁと思いながら、僕は注文をマスターに伝えてアイスティーを注ぐ。 そして、あさひさんのところに持っていこうと思った時。 「……あさひ?」 澄んだ声が、あさひさんを呼んだ。 はっとした顔で振り向き、あさひさんが目を泳がせる。 「由梨、なんで」 「待ち合わせしてるの、彼氏と」 そう言った美人さんの声は、少しだけ冷たくなっていた。

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