38 / 91
第38話
ケアが終わると、あさひさんは明日の予定の確認をし始めた。
その間、僕はソファーにいるあさひさんの足元に座ってそわそわとしてしまう。
何をしたいたらいいんだろうと思いながら、じーっとあさひさんを見つめる。
「なぁに?」
「何してようかなって思ってて……思い浮かばなかったから見てました」
「あー……テレビ見てもいいよ。スマホの確認はしなくていい?」
そう言われて、スマホを手に取る。
何かあるかなと見れば、きなりくんからメッセージが来ていた。
“美作さんは大丈夫?”と、一言。
気に掛けてくれてたんだ、と思わず顔が綻ぶ。
何とかなりそう、とだけ返してスマホはテーブルに置いた。
「あさひさん、もたれてもいいですか?」
「どーぞどーそ」
ふふっと笑いながら、あさひさんはぽんぽんと腿を叩く。
頭をそこに乗せて、ふくらはぎにぎゅっと腕を回して。
さらっと髪を梳くように撫でられて、それだけでふわっと嬉しくなる。
そこで、ハッと気がついた。
「あさひさん、今……」
「ん?」
「手、何もしてないですよね」
あ、とあさひさんも声を出す。
そして自分の手を見て、苦笑い。
「何だろう、何でこんな……」
意識させてしまったのは逆効果だったのかな。
何とも言えない表情のあさひさんに、申し訳なく思った。
「ごめんなさい、あさひさん」
「謝らないで。無意識ならこんなに簡単だったんだ。意識しても、きっと……」
「無理はしないでください。最初は、触れたいって思った時でいいですから」
触るぞって身構えると、出来なくなることもある。
それなら、“ついやっちゃった”を積み重ねていく方がいい。
むしろその方が、僕も嬉しいし。
「じゃあ、これからも沢山“ふーちゃんが可愛い”って思っていいんだね」
にっこにこのあさひさんは、スケジュール帳を置いて近くにあった手袋をはめる。
それから僕を立ち上がらせて、ぎゅーっと抱きついてくる。
「ベッド行こ? 嫌じゃなきゃ、抱きしめて寝たい」
「嫌なわけないです」
お互いに軽く笑いあって、それから寝室に連れて行ってもらう。
手を引かれて二人でベッドにダイブして、そのまま両腕に閉じ込められた。
目の前にあるあさひさんの体が、すごく熱い。
心臓の音もはっきり聞こえてくる。
「俺さ、ふーちゃんが嬉しいことしてくれると、すっごいドキドキするんだ。いつもふーちゃんにときめいてる」
「……僕も、同じです」
「そっか……良かった。俺だけじゃなくて」
「当たり前です。僕は、あさひさんが全部好きですから」
あさひさんの胸に、ぐりぐりと頭をすり寄せる。
人の温もりがすぐそばにあるから、眠気が簡単にやってくる。
「おやすみなさい、あさひさん」
好きな人に抱きしめられて眠る夜は、初めてだった。
ともだちにシェアしよう!