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第41話(きなり)
「そういうもん……ですよね」
「まぁね。何か気になることでもあった?」
「……美作さん、首輪贈らないのかなって」
そう言うと、マスターは「あー」と呟きながら体を起こす。
今度は頬杖をついて何考えているようだった。
「確かにふーくん首輪してないね。貰ったって話も聞いてないし」
「タイミング逃しちゃったって言ってましたよ」
「もっとよく知り合って、関係を続ける意志が固まったらって感じだったもんなぁ。もういい頃だとは思うけど」
「……美作さんて、そう言う欲があんまり無いんすかね」
Subが個人個人で嗜好が違うように、Domにもきっとそう言うものがあって。
所有欲というか独占欲というか……美作さんはあまり文弥くんを縛っていない気がする。
“好き”の気持ちが前面に出ていて、とにかく可愛がりたいって雰囲気なのはよく分かる。
「庇護欲が強いんだろうね。それに、可愛がりたいって純粋にそう思ってるのもあるだろうけど、いじめたいって意味もあるだろうし」
「……何か相反する気持ちですよね」
「まぁ、根本はパートナーを自分のものにして大事にしたいってこと。その気持ちの表れ方が違うだけさ」
なるほど、と口には出さないけど納得した。
気持ちの表れ方か……Subも同じなんだろうか。
俺は、ある程度痛いことをされても平気。
少しくらいわがままを言われても、悪態をつきながら内心喜んでる。
相手の望む自分になる瞬間が、すごく気持ち良いから。
でも、信頼関係が全くない相手に命令されると嫌悪感で吐きそうになる。
言葉に従いそうになる体と、拒否する心。
店で絡まれて嫌な思いをした事は、沢山あった。
だから俺は、信じられる相手をずっと探している。
文弥くんは基本的に自分から何かをしたいし、先回りで役に立とうとする。
自分の存在を認めて欲しくて、褒められるとコロっと落ちる。
痛い事は苦手で、すごく甘やかされたいタイプだ。
俺は、あんな風にはなれない。
「きーくん?」
ぼーっと考え込んでいたら、マスターの声が入ってくる。
顔を上げれば、マスターが心配そうな顔をしていた。
「すみません。Subも同じかなって、考えてて」
「なんだ、あんまり真剣な顔してたから悩み事でもあるのかと思ってた」
「あー……俺悩まないんで、大丈夫ですよ」
そう言えば、マスターはフッと笑った。
少し呆れたような笑い方だったけど、特に怒る気もない。
笑いをおさめてから、目を細めてマスターが穏やかに問いかけてきた。
「パートナーと別れてそこそこ経つけど、体調は大丈夫?」
「なんとか。店で絡まれたり……マスターにしてもらってるんで」
じわり、と罪悪感が染み出してくる。
マスターの顔を見るのが気まずくて、視線は下がったまま。
一時しのぎの相手になってくれるマスターは、現状をどう思っているんだろうか。
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