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第46話
スースーと風を感じる首に手を当てると、今まであった髪の毛は綺麗さっぱり無くなっていた。
美容院のガラスに反射する自分をチラッと横目で見て、にまにまとした。
髪を切ってすぐは、楽しくて鏡やガラスに映る自分を何度も見てしまう。
あさひさんを待つ間も、ドキドキとしながらなれない髪をいじっていた。
「ふーちゃん! お待たせ」
爽やかな声が届いて振り返れば、ぱあっと笑顔を向けるあさひさん。
「かわいい……さっぱりしてて、似合う、可愛い」
「えへへ、ありがとうございます」
思わず照れながらそう言うと、あさひさんは僕の手をキツく掴んだ。
「早く帰って抱きしめたい」と堪らない顔で言うから、恥ずかしくなる。
僕の手を引いて先を歩くあさひさんは、時折ちらりと振り返って口元を緩ませる。
何度もそれを繰り返し、少し呆れ始めた頃にあさひさんのアパートに着いた。
リビングに入るとすぐ、あさひさんは僕の項をするりと撫でる。
それからぎゅっと腰を抱いて、僕の肩に頭を埋めた。
「もう、可愛い。長い時より、可愛く見える。前髪も短いから、顔もよく見えるし」
顔を上げたあさひさんは、まじまじと僕の顔を見た。
頬を染めたあさひさんはそう言うと、僕の鼻先にキスをする。
前よりもクリアになった視界で、あさひさんの顔を見つめる。
やっぱりカッコいいなと、そう思ってしまう。
ぽっと恥ずかしくなるのを誤魔化すように、僕はあさひさんの唇の少し下にキスを返した。
「……ふーちゃん、今日さ。俺からお願いしてもいい?」
「は、はい。いいですよ」
「ありがとう……ちょっとさ、やってみたい事があるんだ。夕飯の後、時間ちょうだい」
熱を帯びたあさひさんの瞳。
それだけで、なんとなく分かってしまう。
ぞわりと広がる期待を抑え込みながら、ゆったりと二人で時間を過ごしていった。
*
「お風呂ありがとうございます」
「はーい。あ、セットしてない髪も可愛い」
何もしていない髪はぺたんこだけど、さらさらと指通りが良かった。
僕の髪を触りながら、柔らかいねとあさひさんが微笑む。
穏やかな顔も、束の間。
すっと細めた目に熱がこもって、あさひさんの口がかぷりと僕の首に噛み付く。
そのまま舌で舐め上げられると、ふるりと腰が震えた。
やっぱり、そう言う事だ。
「ふーちゃん、いい?」
「……はい」
「いつものと……あと、してほしい事があるんだ」
テーブルの上に置かれているのは、痛くない手錠と……
「目隠し?」
「うん。最初はしないけど、後でね。大丈夫? 嫌だったら言って」
目隠しなんてした事がないから、少し不安だった。
でも、あさひさんなら怖いことはしないはず。
「嫌じゃないです。でも、少し不安で……」
「少しでもダメだって思ったら、セーフワード言って。怖がらせたいわけじゃないから」
その言葉に安心して、僕はあさひさんに身を任せることを決意した。
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