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第50話
――…
気付けば、マフラーをして外出する時期になっていて。
常連の女子高生たちも、もこもことした暖かそうな服装になってきた。
「有明さん、ココア3つ! あとー……」
試験明けらしく、ずっと我慢していたケーキを3人で吟味している。
知らない間に新作出てるって言いながらキラキラ笑っていた。
そんな3人のコースターに、“お疲れさま”と書いてそっとココアを運ぶ。
「えー! ヤダもう、有明さん好きになっちゃうじゃん!」
「いけめーん……彼氏超ドライだったから癒された……」
*
本当に、楽しいお客さんが増えたなぁ。
各々選んだケーキを頬張って幸せそうな顔をする彼女たちを見ていると、思わずにやけてしまう。
しばらくその子たちと会話をしていると、カランとベルが来客を告げた。
そこにいたのは、またまた見慣れた顔になった人。
「いらっしゃいませ。ご案内しますね」
仕事の休憩時間に、一人でカフェに来る男の人。
あさひさんより上に見えるから、30手前くらいかな、と。
彼が好む席に案内すると、ニコッと微笑まれる。
いつも決まったドリンクと、気まぐれに選ぶデザート。
「有明さん、今日も可愛らしいですね」
そして、いつからか付け足されるようになった言葉。
受け流すようにはしているけれど、きなりくんは「セクハラだろ」って怒っていた。
最近はオーダーをきなりくんに頼んでいたけれど、今日は風邪で休んでいて。
マスターもキッチンに篭りっぱなしになるから、僕が対応するしかない。
「最近はあまり話せませんでしたからね」
「すみません。2人だと分担して対応するので」
そろそろと距離を取りながらカウンターに戻り、マスターにオーダーを伝える。
ふぅと息を吐いてから、お客さんの見える位置に戻った。
決して、直接危害を加えてくるお客さんじゃないのだけれど……少し、警戒してしまう。
以前、誘いの雰囲気を感じとった時にきちんと断った。
それでも彼は、あの調子で。
僕にはもう誰よりも好きで大切な恋人がいるのだと、本当は言ってしまいたい。
でも、自分の情報を与えてしまう方が怖くて、言葉を選んでしまう。
うーん、と考えている間にカランとまたベルが鳴る。
「っ! いらっしゃいませ!」
ぱっと顔を上げると、そこにはあさひさんがいて。
モヤっとしていた心が一瞬で晴れた。
「ホットコーヒーと……店員さん、オススメは?」
「クリームチーズ入りの、アップルパイです」
「じゃあ、それ。お願いします」
女子高生たちから一席離れたカウンターに、慣れた動作で座る。
あさひさんを見た彼女たちは、一瞬呆然としていた。
コソコソとカッコいい、やばいなんて聞こえてきて僕が誇らしくなる。
この人が、あさひさんが僕の恋人なんだって……気持ちだけは立派に、独占欲を持とうとする。
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