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第51話
弾んだ気持ちでキッチンに行き、あさひさんの注文を伝える。
ちょうど出来上がったあの人のドリンクをお盆に載せ、テーブルまで運びに行く。
「お待たせしました。カフェラテをお持ちしました」
ありがとうございます、と微笑まれる。
伝票を伏せた時に、お客さんの手が重なった。
「あ……ふふ、僕もアップルパイ、いいですか?」
「っ、はい。かしこまりました」
伝票を持ち、足早にカウンターに戻る。
ゾワっとした思いを払いながら、マスターに追加の注文を伝えた。
「ふーくん大丈夫? 顔色悪いけど……」
「大丈夫です。戻りますね」
今まで触れてくることなんてなかったのに。
治らない腕の鳥肌を撫で、落ち着くためにあさひさんをチラリと見る。
どうやら女子高生たちと話していたみたいだけど……目が合うと、心配そうに見つめてきた。
「ふーちゃん?」
そう呼ばれて、何かに引っ張られるみたいにあさひさんの目の前に立つ。
その顔を見ただけで、ほっとした。
「……あとで、話聞くね」
今はお客さんが他にもいるから、と。
周りに聞こえないようなボリュームで、口元を隠してそう言ってくれた。
2人になる時間はあるかな……帰ってからかな……
そう考えつつも、あさひさんに吐き出せると分かっただけでもスッキリした。
今は仕事、と気持ちを奮い立たせる。
あさひさんに笑みを返すと、うんうんと笑って頷いてくれた。
*
「ちょっと、有明さん。あの人と知り合いなの?」
会計の時に女子高生たちが声を潜めてそう聞いてくる。
まじまじと見つめてくる3人の視線を受けて、思わずにやけそうになる。
……素直に言えたら、楽なのにな。
「僕の、大事な友達。よく来てくれるんだ」
「……ふーん」
怪しむような視線の後、コソコソと耳打ちで会話を交わしているようだった。
ハッとした顔を浮かべると、3人はまた僕に視線を向けてくる。
その後、何事もなかったみたいに会計を終えて、手を振ってお店を出て行った。
見送った後にカウンターを片付けていると、あさひさんからおかわりを告げられる。
どうやらお店で待ってくれるみたいで、ゆったりと雑誌を開いていた。
話したいな……とは思いつつ、あの人がいるからあまり素は出せない。
落ち着いてきたからかマスターがいるカウンターに出てきて、代わりにあさひさんと話していた。
しばらくその時間が続くと、あの人は立ち上がって会計に来る。
僕が行こうとすると、さり気なくマスターが先に動いて済ませてくれた。
帰り際に視線を向けられたけれど、すっと逸らして会釈で見送る。
ぱたんとドアが閉まったのを確認してから、大きく息を吐いた。
「お疲れ、ふーちゃん」
話聞かせて? とあさひさんが両手を伸ばしてくる。
その手を握って、僕はぼろぼろと言葉を漏らしていった。
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