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第53話
あさひさんは目を見開いてから、ゆっくりと目瞑って僕の頭を撫でてくれる。
「大丈夫だよ。俺はふーちゃんが悲しくなることなんてしない」
「あさひさん……」
「今は自分のことを一番に考えて? ふーちゃんが傷ついたら、俺も悲しい」
撫でる手に僕の手を重ねて、ぎゅうっと握る。
今は、少しでもいいからあさひさんに触れていたかった。
自分に寄せられる好意で恐怖を覚えたのは初めてで、まだ頭が追いつかない。
でも“もしかしたら”を考えたら悪い方にしかいかないから、とりあえず今は気持ちだけしゃんとしよう。
あさひさんは僕の目をまっすぐに見つめて、静かに切り出した。
「ね、ふーちゃん。これからは毎回、帰り送っていくよ。なるべく早く迎えに来るからさ」
「いいんですか?」
「仕事の合間だけとは限らない。俺が心配だから、そうさせて」
「……お願いします」
あさひさんから手を離し、僕はゆっくりと起き上がる。
そしてあさひさんに、ちょっとしたお願い事を。
「あさひさん……家にいる時の座り方、したいです」
「家にいる時のって……ここ、何も敷いてないけどいいの?」
本当は汚れるからいけないのかもしれない。
けれど、それでも止められない。
僕はあさひさんのもので、僕はあさひさんに守ってもらえるんだって、確認したかった。
やめようって言われるのは怖いから、何か代わりになるもの……と辺りを見渡した。
そこで見つけた棚に置いてあったタオルを引っ張り出して、これがあるからと目で訴える。
そうすればあさひさんは僕を立ち上がらせてくれてから、ソファーに腰を下ろした。
「……ふーちゃん、Kneel 」
広げたタオルの上にぺたんと座って、あさひさんを見上げる。
あぁ、やっぱりこのアングルが落ち着く。
「頭を乗せても、いいですか?」
「いいよ、おいで」
確認をとってから、あさひさんの足にしがみついて腿に頭を乗せる。
すっぽりと足の間に収まる感覚が、たまらなく好きで。
「いい子いい子」と頬を撫でられると、体の内からぽかぽかとしてくる。
「首輪も、考えなきゃな……」
ぽつりと落ちてきたあさひさんの声は、少しだけ震えていた。
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