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第58話

2人で家に帰り、それから夜も一緒にいようとあさひさんは微笑んでくれた。 あさひさんの家でも良かったのだけれど、落ち着くには自分の家の方がいいでしょ、と。 その気遣いに安心して、そのままずるずると甘えてしまう。 すっぽりとあさひさんに後ろから抱きかかえられて、今はのんびりとテレビを観ていた。 肩に乗るあさひさんの顔の近さにドキドキして、内容があまり頭に入ってこない。 「あ、そうだふーちゃん。さっきは俺がなるべく送るって言ったけどさ、一緒に帰れない時もあるじゃん?」 耳元で不意に聞こえた声。 ぴく、と肩を動かすとあさひさんはふふっと小さく笑う。 「……かわいい」 「もうっ、続き話してください」 「ははっ! ごめんって……そう、帰れない時もあるからさ、その時は俺の家に帰って来て。それと、門限も一応決めておこう?」 門限、と聞きふと前のことを思い出す。 先輩と付き合っていた頃は、俺より遅く帰るなだのなんだのと言われていたなぁと。 時間を決められる事よりも面倒だったあの頃を思えば、今のこの制限は確かな愛を感じる。 「……急にごめん。嫌だった?」 「違います! こんなに嬉しい門限って、不思議だなって」 頬に熱が集まるのを感じながら、少し笑ってそう告げる。 あさひさんが心配だからと設けてくれるものだと思うと、嬉しかった。 「ふーちゃんがその時間まで帰って来てなくて、連絡もなかったら……って思うと、怖くてさ。もしもの事はあまり考えたくないけど、アイツに何されるかも分からない」 あさひさんはぎゅっと、僕を抱きしめる手に力を込める。 「大丈夫です。僕の帰る場所はあさひさんですから。あさひさんが大事にしたいと思ってくれている僕を、僕自身も大事にします」 あさひさんを悲しませたくないから。 僕が僕である事を望んでいるのならば、自分の事を精一杯大事にしなきゃ。 僕がそう言うと、あさひさんは驚いたようにぱちぱちと瞬きをする。 それからふにゃりと笑って、「頼もしいなぁ」なんて。 自分に自信を持ちたいと思ったのは、僕が“あさひさんのもの”だからだ。 あさひさんの大切なものを僕も大事にしたいと誓ったから。 「ふーちゃんのそういうところ、本当に好き」 そう言ってあさひさんは僕の耳にキスをする。 軽く吸って落ちていくキスは、項の辺りで強く吸い上げられた。 あさひさんの顔が満足気だから、きっと赤く跡がついているのだろう。 「サプライズって思ってたんだけどさ……先に言っておく。再来週のふーちゃんの誕生日、首輪渡したいんだ」 遅くなってごめんね、とあさひさんの声が下がる。 僕はその言葉に首を横に振り、あさひさんの目をじっと見つめた。 「お互いのこと、いっぱい分かり合いましたもんね。あさひさんから貰えるの、うれしい」 あさひさんから贈ってもらえるのなら、首輪はいつだって構わないと思っていた。 目に見える証が脆いものだと分かっているから。 それでも、泣きそうなくらい嬉しくてたまらなかった。

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