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第61話(きなり)

「……良かった。ふーちゃん、見たときには顔が真っ青だったけど、少し話したら良くなってきた」 カウンターにぺたりと顔を伏せ、美作さんが脱力する。 ぽそりとこぼした言葉に、俺もうんうんと思わず頷いてしまった。 「丁度窓からアイツの影が見えたんです。それで、店に入って来たのがアイツなんじゃないかって思ったみたいで……」 「……だからあんなに怯えた顔をしていたんですね」 「ちゃんと言ってくれたのでカウンターの奥の方に引っ込めたんです。窓の外にいて不安だから、って」 「そうですか……ちゃんと頼れたんですね」 顔を上げて『はー』と息をつく美作さん。 どうやら美作さんもかなりホッとしたらしい。 何が起こるか分からない不安は、文弥くんも美作さんもかなり大きいようだった。 確かにそうだ、何も起きないかもしれないし、酷い危害を加えられるかもしれないし。 どうなるか分からないって言う事が一番不安なんだろう。 「一応店に出ている間は頑張っているんですけど……彼氏と別れた頃の話だと、相当眠れなかったみたいなんです。ストレスかかると、食とか睡眠にすぐ影響が出るみたいで」 「そうなんですね……心配だから俺の家に最近は泊めているので、改めて気にかけてみます」 ありがとうございます、と言う美作さんの表情が、とても大人に見えた。 これが“守る人”の顔なんだろうな。 「あの、美作さん。余計なお世話だとは思うんですけどいいですか?」 俺がそう言うと、美作さんはきょとんとした顔で頷く。 「……美作さんも、困ったとかなんかあったら言ってください。俺じゃ頼りないだろうから、マスターとか、頼れる人に」 「え……?」 「美作さんだって不安だろうし、その、文弥くん支えるためにって気を張り続けるのも……大変だと思うので……」 勢いで言ってしまったものの、本当に余計なお世話だっただろうか。 美作さんだってここ以外にも知り合いはいるのだろうし、もっと頼れる人もいるかもしれないのに。 この状況を知っている身としては、美作さんも放っておけない。 「……ははっ! ありがとうございます。こんなにかっこいい知り合い、きなりくんくらいですよ」 へにゃりと笑う美作さん。 やっと美作さんからも力が抜けたみたいだった。 「本当に……ありがとうございます。一番頼れるから、ここでたくさん話をさせてください」 安心したような美作さんの表情。 言って良かった、なんて心の底で俺自身も安心していた。

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