62 / 91

第62話

_… 閉店後に迎えに来てくれたあさひさんと一緒に帰って、ご飯を食べて。 お風呂上がりのあさひさんに少しだけ触れてもらった後に、1つのベッドに2人で寝転ぶ。 最近は朝まで抱き締めてもらって、眼が覚めるとあさひさんが居る安心感に包まれていた。 そんな日々が続いていたから、すっかり僕は安心していたんだ。 その日の夜中、ふと眼を覚ます。 直前まで昔の夢を見ていた気がする。 詳しくは覚えていないけれど、じわじわと不安が広がる胸が気持ち悪い。 寒さを覚えて瞬きをすると、少しずつ暗闇に目が慣れていく。 ……目の前に、あさひさんが居ない。 一気に体温が下がった気がして、勢いよく跳ね起きた。 部屋を見渡しても、あさひさんがどこにも居ない。 なんで、とそれだけが頭の中をぐるぐると回る。 おやすみと言ってくれた時は、確かに抱き寄せてくれていたのに。 頭を過る“置いていかれた”と言う感覚に、思わず身体が強張る。 「……あ、さひさん……あさひさんっ……」 ガチガチと震える身体を自分で抱きながら、ただ僕はあさひさんの名前を呼ぶことしか出来ない。 少しすると、あさひさんを呼ぶ声の合間にぱたぱたと走る足音が聞こえてきた。 「文弥!? ごめん、起きちゃったんだね……ごめんね」 戻ってくるとすぐにあさひさんは僕を抱き上げてくれた。 ぽんぽんと背中を優しく叩いてもらっそて、やっと少しずつ身体から力が抜けていく。 「……置いて行かれた、って……」 「ごめんね……大丈夫だよ。俺はふーちゃんを置いて行ったりしない」 「分かってます。ちゃんと、分かってるんです……何か嫌な夢も見て、僕ちょっと……混乱してて」 冷静になった今思えば、トイレかなとか水を飲みに行ったのかもとか色んな予想が出来るのに。 あの一瞬でパニックになる自分が、少し嫌になる。 「そっか……今は落ち着いたみたいだけど、ベッドに戻ったら眠れそう?」 「……あさひさんが、居てくれるなら」 「ふふ、じゃあ朝までぐっすり眠れるね」 あさひさんは僕をベッドに下ろして額にキスをしてくれた。 それからまた2人でベッドに潜り込んで、さっき眠った時よりもぎゅっと距離を縮めて抱き締めてくれる。 「おやすみ、いい夢を」 もう一度額にキスをしてくれたあさひさん。 身体がぽかぽかしてきて、すぐに眠気が来る。 悪い夢を吸い取って、その代わりに幸せな夢を吹き込んでくれたのかもしれない。 * それからすぐに眠りについた僕は、あさひさんに抱き締めてもらったまま朝を迎えることが出来た。

ともだちにシェアしよう!