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第63話
*_…
あのお客さんから声をかけられてから、2週間が経った。
店側の警戒がバレたのか、いつの間にかあのお客さんはお店に顔を出さなくなっていた。
お客さんに怯える事なく、常連の女子高生たちと会話をして。
穏やかな時間を過ごせるようになり、気がつくと3日後には自分の誕生日が迫っていた。
今までは意識していなかったけれど、今年は違う。
あさひさんから首輪を貰う、特別な日になるんだ。
以前のパートナーからのclaime は、あまりにも窮屈だった。
証じゃなくてただの飾りなのに、枷みたいに重くて外せない。
そんなものが僕を縛り付けていたのだと思うと、今なら素直に怒りを出せる。
*
夕方、閉店の後の着替えの時に、たまたまきなりくんの首輪が目に入った。
普段はシャツの襟で隠れている部分が多くて、全部を見たことが無い。
薄いベージュのような柔らかな皮に、金具の銀色がきらりと光る。
「……綺麗だね」
思わずポツリと言葉が漏れると、きなりくんは怪訝そうな顔を向けてくる。
「何、急に」
「や! あの……その、きなりくんの首輪……凄い、綺麗だなって」
「……どーも。マスターのセンスだし。ま、いい方なんじゃない?」
そっぽを向きながら口ではそう言うけれど、きなりくんの表情はいつもより穏やかだ。
相当気に入ってるんだなって、一目でわかる。
大好きな人から貰えたなら、そりゃあ嬉しくて堪らないだろう。
「で、文弥くんのご予定は」
「んー……ふふふ、誕生日に貰うの」
僕が笑みを堪えきれずにそう言うと、きなりくんは目をぱりくりさせてから笑顔を見せた。
少し呆れたように、でも決して嫌な雰囲気ではなくて。
「やっとだね、良かったじゃん」
誰かのものになれる瞬間は、僕らにとっては至福で。
そこで改めて、僕らは1人の主人に身を捧げる決心が出来るんだ。
貴方だけの自分になると誓う日。
子供の頃よりも誕生日待ち遠しくて、カレンダーを何度も見てしまう。
……浮かれている自覚はある。
でも、それだけ僕はclaimeを望んでいたんだ、って。
いくらあさひさんの傍に居られることが幸せだとしても、その証は何にも変えられない最高の贈り物。
「ったく、浮かれすぎ……明日は午前で店閉めるんだから、その間くらい集中してよね」
「分かってるよぉ」
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