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第65話
「……ねぇ、お店の鍵まだ持ってるよね?」
「持って、ます……けど」
「開けてよ。中で二人っきりで話がしたいんだ」
「いえ、それは」
出来ない、と口に出そうとすると僕の腕を掴んでいる手に力が込められる。
続くはずの言葉が引っ込んで、思わず「痛い」と漏らしてしまう。
「俺のことを蔑ろにしてくれたお礼、しなきゃいけないと思ってさ。どうせなら、いつもの仕事場がいいかなって」
そう言ってお客さんは腕を離してすぐに首に手をかける。
ヒュッと自分の息を吸う音が聞こえた後、すぐに息苦しくなった。
お客さんが僕のポケットを弄って鍵を探していることは分かっているのに。
苦しくて、怖くて、抵抗出来ない。
「あ、あった。じゃあお邪魔します」
お客さんは僕の首を掴んだまま、見つけた鍵で店を開けて中に入る。
ラグの上に投げ飛ばされた僕は、むせながら息を整えようと必死に酸素を求めた。
「やっぱり良いお店だよね……っはは、働いてる場所でお仕置きされるのってどんな気持ちなんだろう」
「そんな、こと……やめてください!」
声は震えてしまうけれど、決して流されたくなかった。
お客さんの思い通りに行くのは嫌だから、口だけでも強がらなくちゃ。
「あぁごめん、お仕置きじゃなくてお礼ってさっきは言ったからね」
「そんなのどうでもいいです。お話だけ、今日はちゃんとさせてください」
「……へぇ。文弥くんが勇気出して歯向かってくれてるのに悪いんだけど……あんまり長話は好きじゃないんだ」
立ち上がろうとする僕の口を押さえて、お客さんはじっと目を見つめてくる。
「美作あさひさんだっけ? 文弥くん、俺がいるのにあんな奴とつるんでさ……claimeもロクにしてくれないDomなんかより、俺の方が大事にしてあげられるって伝えたかったんだ」
目を見つめられたまま、金縛りみたいに動けない。
肌がピリピリと痛むほどの威圧感に、身体が勝手に降伏しそうになる。
ぺたりと尻餅をついて、必死に後ずさろうとしているのに。
「stop」と声をかけられると無意識にその足掻きが止められる。
「ははっ! やっぱりこうやってDomの言うことを聞くのがSubの幸せだよね」
顔から手が離れたのに、そこから一歩も動けない。
お客さんが解いたネクタイで呆気なく僕の両腕は結ばれ、その手を引かれて四つ這いの姿勢にされる。
「俺の言うこと聞いて……俺のパートナーになりなよ。すぐにでもclaimeしてあげる。俺がご主人様になって、毎日Subの幸せを感じさせてあげるよ」
恐る恐る顔をあげると、すぐに左頬に痛みが走った。
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