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第67話

「『何で』って、そんなの俺がDomで文弥くんがSubだからとしか言えないな」 「……え?」 「顔に書いてあるよ、俺に従うのが嫌で嫌で堪らないって。何でコイツに従わなきゃいけないのって」 くつくつと笑う夜月さんは、口元だけの歪な笑みで僕を見下ろしていた。 「自分のパートナーをいとも簡単に奪われる間抜けなDomより、自分を嫌ってるSubを従えられるDomの方が魅力的じゃない?」 「……あさひさんの事ですか」 「いや? そんなこと言ってないよ。でも……」 靴べらで僕の顎をすくって、夜月さんは顔を覗き込んでくる。 その真っ直ぐに向けられる視線が痛い。 「間抜けだって思ってるんだ、美作さん可哀想……文弥くんが勝手に俺にのせられただけなのに」 その言葉に、ぴたりと思考が止まる。 「そんなに俺のGlareが怖い? 最初だけで今はほとんど出してないのに」 「……こわく、なんか」 「へぇ。怖くないのに従うんだ。自分を縛ってくれるなら誰でもいいんだね」 「ちが、僕はそんな」 違う、怖くないって口だけでは言わなきゃ。 認めたらもう、崩れそうになるから。 「Shush(静かに)」 また閉ざされた唇を噛むと、微かに鉄の味を感じる。 こんな意味ないコマンド、聞かなくたっていいのに……! 「……うん、静かに待てたね。偉い偉い」 こんな状況ですら、『偉い』の言葉がよく耳に届く。 今すぐ噛み付いてしまいたいくらい憎いのに。 それなのに、ぺたりと腰を下ろしてしまう自分が嫌いだ。 恐怖がじわじわ這い上がって、勝手に言うことを聞く身体が自分じゃないみたいで。 あぁこの感覚、少し前に何度も味わったことがある。 満たされたい僕は、身体を相手に委ねても心が空っぽのままで。 「ふふ、自分からKneelまでして……もうそろそろかな」 夜月さんはカバンからタオルを取り出して、ゆっくりと近づいて来る。 「少し目隠ししてみよっか。俺の言うこと上手に聞けたら、たくさん気持ちよくなれるからね」 夜月さんの気持ち悪いくらいの満面の笑みが、すぐにタオルの裏に隠される。 あ、と情けない声が自分の口から漏れてまたすぐに涙が溢れてきた。 「や、いや……あさひさん」 ごめんなさいの言葉を紡げないまま、意識が遠くなっていく。 せっかくあさひさんが僕を大切にしてくれていたのに。 そんな僕を、僕自身が大切に出来なかった。 ただただあさひさんを汚してしまった後悔だけが、僕の胸の中で重く渦巻いている。 「文弥くん、いい子だね」 その言葉に、僕の理性は引き寄せられていく。 そうすれば“今”の僕は傷つかない。 プツリと意識を落として、僕は夜月さんに身体を預けた。

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