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第75話
きまりが悪そうな顔で目線を落とすあさひさん。
への字になった口元の所為か、どことなく幼く見える。
「俺……ふーちゃんのこと守れなかったし、俺のものなのにって……すごく、腹立てちゃったし。それをふーちゃんにぶつけるなんて、情けなくて仕方がなくて」
「お、『俺もの』……って」
あさひさんの言葉を繰り返して、自分の顔に熱が集まるのが分かった。
今までそう大切にされてきた実感がないわけではないけれど……改めて言葉にされると、恥ずかしさとそれ以上の嬉しさが込み上げてくる。
僕の顔を見て、あさひさんが複雑そうに微笑んだ。
「……やっぱり、思いだけじゃダメだったんだよね」
あさひさんはそう言って立ち上がると、「待ってて」と部屋から出ていく。
戻ってくるまで、少しだけ自分の鼓動が煩くて。
こんな事で不安になるのも、さっきの言葉が引っかかるからだ。
思いだけでもたくさんもらっているのに。
僕がそれに返せているか不安なくらいなのに。
「……お待たせ」
小さな白い紙袋を持ったあさひさんは、またベッドに戻って腰を下ろす。
待っている間に自然と僕はKneelをしていて、あさひさんはそれに気付いて「かわいいね」なんてやっと柔らかく笑ってくれた。
「本当は、早く渡すべきだった……それが出来なくて、せめて誕生日に渡そうと思っていたんだけど……ごめんね、今どうしても見せたくて」
袋から小箱を取り出して、あさひさんが開けた。
そこにあったのは、淡いオレンジがかったピンク色の細い首輪。
はっと顔を上げると、真剣な顔をしたあさひさんが僕を真っ直ぐに見つめていた。
「文弥、俺のパートナーとして……受け取ってくれますか?」
僕は、頭で考えるよりも先にその首輪を持つあさひさんの手に自分の手を添えた。
ぎゅっと、壊れないように力を込めて。
あとは、決まり切った返事を言葉にするだけ。
「もちろんです。これからも、傍にいさせてください」
勝手に笑みを浮かべる口元。
幸せすぎて、微笑みがおさまらない。
あさひさんも今まで見たことないくらい、目を垂れ下げて笑っていた。
あぁなんか、不意にキュンとしてしまう。
「……あさひさん。今、着けてもいいですか?」
「うん。待って、着けてあげるから」
あさひさんが僕の後ろに回る。
箱からそっと首輪を取って、ゆっくりと僕の首元に宛てた。
「苦しくない?」
「はい。丁度良いです」
確かにそこにある感覚。
前に受け取ったものは、無機質で息苦しささえ感じていたけれど……
今はこの感覚が、愛おしい。
「あさひさん、ありがとうございます」
そして何より、今の僕を見るあさひさんの目が1番綺麗に見える。
それが堪らなく嬉しかった。
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