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第76話
その後、胸がいっぱいだからとあさひさんがもうお仕置きはおしまいと告げた。
「今日は身体を休めて」と労るようにキスをされたら、もう反抗する気がなくなってしまった。
せめて汗だけ流したくて、名残惜しいけれど首輪を外してまたあさひさんとシャワーを浴びる。
2人とも目が合うだけで微笑んでしまうのが、何となく付き合いたての頃を思い出させて恥ずかしくなる。
*
風呂から上がると、いつものようにあさひさんがソファーに座り手をケアする為の道具を机の上に広げた。
もう見慣れてきたので、物はもちろん順番も頭に入っている。
そこで、一つずっと言いたかったことを思い出す。
今なら言えるかも、と少し浮かれた気分に任せてあさひさんにおねだりをしてみた。
「あさひさん……今日は、僕があさひさんの手のケアをしていいですか?」
前から少しずつヤスリで爪の形を整えることはしていたけれど、お風呂上がりのケアはまだだった。
あさひさんはぱちくりと瞬きをしてから、ふわりと笑って「いいよ」と言ってくれた。
その返答を聞いて、すぐにあさひさんの足の間でKneelをした。
「……緊張するね」
「嫌だったら言ってください。もっとこうして欲しいとか、どうやったらいいかとか。あさひさんも、隠さずに言ってくれたら嬉しいです」
「ふふ……っ、ふーちゃんには敵わないなぁ」
よろしくね、と差し出された手。
まずは化粧水を手に出して、あさひさんの手に少しずつ馴染ませていく。
手の甲に掌、指先まで1本1本辿っていく。
改めて見て、やっぱりすらっとした綺麗な指だと思う。
そうだ、あの日、この指に惹かれて僕は……
「ふーちゃん?」
「あ、ごめんなさい……つぎ、は」
順番は、覚えている。
だから何も心配なく進めていけるはずなのに……
身体がふわふわして、思ったように出来ない。
「あれ……?」
どうして、と戸惑いながらあさひさんを見上げた。
それなのにあさひさんは、にっこりと笑っている。
「文弥、次はハンドクリーム。さっきと同じように、ゆっくり伸ばして」
そう言葉で伝えられたら、その通りに手が動く。
しっかりと馴染ませた後にまたあさひさんを見上げると、すぐに「Good 」と額にキスをくれた。
「うん、上出来。あとは、マッサージもしてもらおうかな。まずは……」
あさひさんにやり方を教えてもらうと、身体が動く。
手順を覚えなきゃと思っているのに、ぼーっとしてしまう。
あさひさんに教えてもらうのがとても心地良くて。
このまま、今日だけはこのまま続けたいと、そう思ってしまった。
*
「はい、よく出来ました」
マッサージ終わりのあさひさんの温かい指先が、僕の顎先を撫でる。
あさひさんの手に触れている間、ずっと心地良くて幸せで。
もう終わってしまうのか、と名残惜しくなる。
「……ふふ、可愛いなぁ。俺の手に触れてサブスペースに入るなんて」
「え……あ、僕っ!」
そう言うことだったのか、と一瞬でクリアになった頭で理解する。
恥ずかしさに俯きそうになったけれど、思わずあさひさんをまじまじと見つめてしまった。
「すごく愛されてる気がする」
目の前のあさひさんが、あまりにも幸せそうに笑うから。
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