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第81話(きなり)

美作さんにホットサンドを頼まれた千博さんは、手早く作り早々に渡してキッチンに戻ってきた。 千博さんの言いつけけ通り椅子に腰掛けて待っていたら、不意に頭を撫でられる。 「きなり、お疲れ」 「……なにが」 「美作さんのGlare、強かっただろ?」 そう労るように言われて、素直に頷ける質じゃない。 それでも、精一杯甘えてしまいたくて言葉を探す。 「別に、俺に向けられたものじゃないし」 「うん……そうか」 「……少しあてられたけど……千博さんが、戻してくれたから」 あの時千博さんに背中を押してもらわなければ、一歩も歩けなかった。 千博さんのおかげで軽く済んだ。 だから、「ありがとう」と一言付け足しておいた。 それに千博さんは柔く微笑んでくれる。 この人は本当に、俺の扱いを知っていて腹が立つ。 「文弥くんにも、冗談っぽく言ったけどさ……美作さんって、本当にDomだったんだな」 「え? どう言うこと……」 「いや、普段の感じだとあんな威圧できると思わなくてさ」 「……なるほどね」 俺の隣に座って、千博さんは「うーん」と悩むように首を傾げる。 それでも表情は、どこか幸せそうだ。 「それはさ、本能だよ。Domの」 「……本能?」 「俺らはパートナーに信頼されて、甘えてもらって、尽くしてもらって……沢山のものをもらっている。それにきちんと応えないと、パートナーとの関係は成り立たないだろう? だから、守りたいし愛したい、パートナーが望むご褒美をあげたい。相手の為なら、いくらでも必死になれるんだよ」 千博さんはそう言って、チラリと俺に視線を向ける。 初めてそんな、胸の内にある言葉を聞いた。 どれだけ突っぱねても、言葉では虚勢を張っても、この人には敵わないはずだ。 俺のその態度ですら“信頼”だと、きっと千博さんにはバレている。 「そういうもん、なんだ」 「きなりだってそうでしょ? 信頼してもらってるって、俺は思ってたけど」 「……っさいな」 俺は立ち上がって、千博さんの前にしゃがみ込む。 下から見上げる千博さんの顔……嫌いじゃない。 足をゆったり広げて、俺が入るスペースを開けてくれるところも、憎いくらい好きだ。 「千博さんがそう思うなら、それでいいよ」 千博さんの太腿に手をついて乗り出して、顎先にキスをする。 そこより上は、自分からするのは恥ずかしい。 またしゃがんで距離をとれば、わしゃわしゃと頭を撫でられる。 「最高だなぁ、俺のパートナーは」 千博さんにそう誉められるのが、一番好き。

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