81 / 91
第81話(きなり)
美作さんにホットサンドを頼まれた千博さんは、手早く作り早々に渡してキッチンに戻ってきた。
千博さんの言いつけけ通り椅子に腰掛けて待っていたら、不意に頭を撫でられる。
「きなり、お疲れ」
「……なにが」
「美作さんのGlare、強かっただろ?」
そう労るように言われて、素直に頷ける質じゃない。
それでも、精一杯甘えてしまいたくて言葉を探す。
「別に、俺に向けられたものじゃないし」
「うん……そうか」
「……少しあてられたけど……千博さんが、戻してくれたから」
あの時千博さんに背中を押してもらわなければ、一歩も歩けなかった。
千博さんのおかげで軽く済んだ。
だから、「ありがとう」と一言付け足しておいた。
それに千博さんは柔く微笑んでくれる。
この人は本当に、俺の扱いを知っていて腹が立つ。
「文弥くんにも、冗談っぽく言ったけどさ……美作さんって、本当にDomだったんだな」
「え? どう言うこと……」
「いや、普段の感じだとあんな威圧できると思わなくてさ」
「……なるほどね」
俺の隣に座って、千博さんは「うーん」と悩むように首を傾げる。
それでも表情は、どこか幸せそうだ。
「それはさ、本能だよ。Domの」
「……本能?」
「俺らはパートナーに信頼されて、甘えてもらって、尽くしてもらって……沢山のものをもらっている。それにきちんと応えないと、パートナーとの関係は成り立たないだろう? だから、守りたいし愛したい、パートナーが望むご褒美をあげたい。相手の為なら、いくらでも必死になれるんだよ」
千博さんはそう言って、チラリと俺に視線を向ける。
初めてそんな、胸の内にある言葉を聞いた。
どれだけ突っぱねても、言葉では虚勢を張っても、この人には敵わないはずだ。
俺のその態度ですら“信頼”だと、きっと千博さんにはバレている。
「そういうもん、なんだ」
「きなりだってそうでしょ? 信頼してもらってるって、俺は思ってたけど」
「……っさいな」
俺は立ち上がって、千博さんの前にしゃがみ込む。
下から見上げる千博さんの顔……嫌いじゃない。
足をゆったり広げて、俺が入るスペースを開けてくれるところも、憎いくらい好きだ。
「千博さんがそう思うなら、それでいいよ」
千博さんの太腿に手をついて乗り出して、顎先にキスをする。
そこより上は、自分からするのは恥ずかしい。
またしゃがんで距離をとれば、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「最高だなぁ、俺のパートナーは」
千博さんにそう誉められるのが、一番好き。
ともだちにシェアしよう!