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第3話

「懐かしいな…」 ガキの頃は毎年来ていたのに学校や両親の仕事が多忙になったからここに来たのは数年ぶりだった。今は使用人を雇い管理して貰っていた 手入れの行き届いた庭。ぴかぴかに磨かれた廊下や窓… よっぽどいい使用人なんだろう。 自室として使っていた部屋へ足を踏み入れる。 そこは花の香りがした。それも嫌な臭いじゃなくて優しい…包み込んでくれそうな香り 綺麗に整えられたベッドへ腰かけた 「親父。今ついたよ」 『そうか。ゆっくりとしろよ。あ。そうそう。璃人』 「ん?」 『一人じゃ心細いだろうからお前のいる間そこを管理している人がそこに泊まるから。何かあればその人に言いなさい。とてもいい人だから』 「そんなの良かったのに。でも…ありがとう」 『璃人。人の気持ちは移り変わる。それはきっと多くの人に出会うため。お前にはきっとまだ出会うべく人が要るんだ。だから…』 「ありがとう。大丈夫。ちゃんと元に戻って帰ってくるから」 親父の不器用な優しさが身に染みる 電話を切り海へ向かった。 人はまばらで。でもここからみる夕日が好きだった。 空が徐々に影を落とし始めゆっくりと赤く色付く水面をただ静かに見ていた。 ふと目線をずらすとそこには海にはあまり似つかわしくない男がたっていた。 顔はここからでは見えないけれど泣いているようにも見えた。 俺みたいに…失恋でもしたのかな? 何かに誘われるようにそちらへ向かう 空はすっかり暗くなっていた 「こんばんは」 まさか声を掛けられるなんて思わなかったのだろう。 小さく肩をあげゆっくりとこちらをみた。 「綺麗…」 振り向いたその顔があまりにも美しくて思わず零れた 「え?」 「あ…ごめんなさい…あまりにも綺麗だから…つい」 「…」 そう言うと彼はふっと悲しげに目を伏せた 「…すいません…気に触りました?」 「いえ…」 声まで綺麗だ… 「あの…」 「…璃人さま?」 「え?」 「私すぐそばの別荘の管理のお手伝いをさせていただいてまして…ここにこんな都会的な人がいることは滅多にないからもしかしたら…と…違ったらすいません」 「…じゃああなたが管理してくれてる人?」 「えぇ。…まぁ…正確に言うと母が普段はさせていてだいいるのですが腰を痛めてしまったので先月の終わりからこの期間は代わりに私が…」 「そうだったんだ。円山 璃人です。あんなに綺麗に維持して頂いてありがとうございます」 「高遠 瑪瑙です。喜んでいただいてる?のですね?良かった。これから円山さまの別荘へお伺いし夕飯の支度をと思っていたところです。すいません…遅くなってしまって」 「大丈夫だよ。一緒に行きますか?」 「えぇ。お言葉に甘えて」

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