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第3話
ある日、身の回りの世話をしてくれる看護師らしい女性に話しかけられた。彼女は年配の女性で、いつも優しそうな雰囲気だ。
簡単な英語で食事をしていないのをやんわりと注意された。
広瀬は出されたスープを一口二口義理のように口にしたが、それ以上は食べられないでいた。
看護師の女性はため息をついた。
それじゃあ元気がでませんよ、といったような意味合いのことを言った。
彼女は、それからしばらく考えていて、ポケットから小さなビニール袋を出した。
「昨日の夜、スタッフがあなたの服を片付けていて見つけた」と彼女は広瀬に分かるようゆっくりと言いながらそのビニール袋を差し出した。
折りたたんだ紙が入っている。
「大事なもの?」
広瀬は、そのビニール袋の口を開き、その紙を取り出した。
「胸ポケットに入っていた」と看護師の女性は自分の胸を示して教えてくれた。「長いこと入っていたみたい。大事にしていたのでは?」
広瀬は、折りたたまれたその紙をひらいて言った。
そこに書かれていた文字はたたまれていた箇所はかすれていたが、読むことができた。
そこには、『親友のKへ。そして、Kが愛してやまない美しいAへ。僕はまだ会ったことがないけれど』と書かれていた。
広瀬は何度も何度もその文字を読んだ。
東城の親友の枝川が書いた絵のところにこのメモをつけていたのだ。Kは東城の名前だ。そして、Aは広瀬の。
このメモは、枝川のアトリエからなぜかこっそりと持ってきてしまって、いつも胸ポケットに入れていたのだ。
この言葉が、広瀬は好きだった。時々開いて、その言葉を読み返していた。
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