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第5話
青々とした芝生が目に眩しい。
白い丸いテーブルの前に、女性が座っていた。
夏の日差しに合わせて大きなつばの白い帽子をかぶっていた。
肩まである明るい茶色の髪が丁寧に巻かれている。
彼女は、東城の方に手を挙げて、自分がいることを示した。
「お久しぶり」と彼女は言った。
東城は、挨拶をして、彼女の正面の椅子に座ろうとした。すると、彼女は自分のすぐ横の椅子をさらに引き寄せ、そこに座れと指で示した。
東城は苦笑し、命じられるままに、椅子に座った。
「何か頼みましたか?」と東城は聞いた。
「いいえ、まだよ」と彼女は言った。
「何がいいですか?」
「好みは変わっていないわ」
東城は、近くにいたウェイターを呼ぶ。そして、メニューを見ずに注文した。
「シャブリを。それと、ビール」
彼女は満足そうに微笑んだ。
辛口の白ワインがくると、彼女は、太陽の光にそれをかざした。「また会えて、うれしいわ。昔の、恋人に」
「俺も嬉しいですよ。仕事上の演技とはいえ、恋人だったあなたに再会できて。ちょっと、怖くもあるかな」とおどけて言った。「最近、いつもの界隈でみかけなかったですね」
彼女は、男性に近づき、機密情報を得るハニートラップを仕事にしていた。
機密情報を取引する界隈では、彼女は梔子と呼ばれていた。
本名も素性も誰も知らない。
かろうじて現在の国籍が日本であることしかわかっていない。それも、いつ変わるかもわからない。
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