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第7話
東城はうなずいた。「お役に立てて良かったです」
「どうして、親切をして下さったの?」
「どうしてって、友人が困っていたからできるだけ助けたくなったんです。できることは少ししかないですけど」
彼女は微笑んだ。「友人?」
「ええ。まあ、それは、あなたにとってはあの時俺と会って話をしていたのはビジネス上の取引の一環だったんでしょうけど、俺は、あなたと過ごして楽しかったし、友人と思ってますよ」と東城は答えた。
「そう。ありがとう。うれしいわ。そんなふうに言ってくれる人は、すごく、少ないから。本当に、うれしいし、それに、何というか、いろいろと想像してしまうわね」と彼女は言った。
そして続ける。「あ、そうだわ。いつだったか、東城さん、恋人が私たちが一緒にいるところを偶然見かけてしまって、あやうく別れるはめになるところだったって言っていたわ。覚えている?あの時、あなたは、なんとか説明したからことなきをえたけど、すごくあせったって言ってうんざりした顔してた。でも、恋人が嫉妬したのを私にのろけてみせただけっていうのは、わかっていたのよ」
彼女はグラスの中を見た。「あなたの恋人がうらやましかった。わたし、あなたの恋人にちょっと妬いてたのよ。あなたは気が付かなかったけど」
東城は苦いビールに口をつけた。自分はその話を痛みを感じずにはまだできない。
黙ってビールを飲む東城に、彼女は優しそうな目を向けた。
しばらくしてから、足元のかごに入れていたバッグから、白い大きな封筒を取り出した。
「それでね、今日来てもらったのは、これをあなたに渡したかったからなの。私からのお礼の品」と彼女は言った。
「なんですか?」
白い封筒は厚みがあった。封をしてあるので中は開けないとわからない。
「あなたが、人を探していると聞いたの。これが、あなたの助けになるかもしれないわ」
「俺が人探しをしているって、誰が、そんなことを?」
「私の仕事は知っているでしょう?なんでも耳に入るのよ」そして言った。「不要だったら捨てて頂戴。これは、私のビジネスとは全く関係なく、あなたにお礼をしているだけだから」
広瀬に関係するなにかなのだ。
彼女は自分のネットワークをつかって、情報収集をしてくれたのだろう。
「ありがとう」と東城は言った。「でも、なぜ、ここまで」
彼女は微笑んだ。「だって、友人が困っていたら、助けたいと思うものでしょう」
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