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第12話
「写真に写ってるの菊池ですね」と佳代ちゃんがテーブルに写真を並べて指さす。「暗くてわかりにくいですけど」
佳代ちゃんは、自分の警視庁内外の人脈を駆使して、菊池のことや広瀬の起こした事件の捜査の進捗情報を東城にもたらしてくれている。
「菊池は、デンバーの会社で記憶のデバイスを商品化しようとして投資家を募っている。広瀬がいるのはパーティー会場だ」
「資金集めしているんですか」と宮田は言った。
東城はもう一枚の写真に写る東洋人を示した。
「この男は、アンディ・ミツモリという名前らしい」
「日系人ですか?」
「そうかもな。この男は日本に何度も来て日本の投資家に接触している。この手紙によると、もしかしたら元々のデバイスの開発者の滝教授にも接触して、デバイスの開発に需要な情報を得ようとしているらしい」
「菊池の会社はデバイスの開発情報を盗んで逃げて、また、盗ろうとしてるんですか?」
「そのようだな。滝教授にはうまく接触しているみたいだ」
「そうとう図々しい奴らですね」と宮田は半ば感心して言った。「それで、これからどうするんですか?東城さん、デンバーに行くんですか?」
「必要があれば行く。だけど、それよりも重要なことがわかった。今度、このアンディ・ミツモリは、アメリカの投資家と広瀬を日本に連れてくるらしい」
「え?」宮田の声が大きくなる。「本当ですか?」
東城は手紙の最後の方を指さす。「ここにはそう書いてある」
「信じられない。だけど、もし、本当なら」宮田は英語の手紙を見ている。
「アンディ・ミツモリがいつ、どの便で日本に来るつもりなのか調べてみます」と佳代ちゃんが言った。
「そんな細かいことわかるの?」と宮田が佳代ちゃんに聞いている。
佳代ちゃんはうなずいた。「テロ対策のために日本に来る飛行機の搭乗予定の情報を把握している人を知ってるの」
「すごいな。それが分かれば、広瀬につながる」と宮田は感心している。
「ええ。広瀬くんを見つけて、取り戻すことができるわ」と佳代ちゃんは確信のこもった口調で言った。
その後も、3人でデンバーの菊池の会社の情報を得る方法について話をした。
こうして話しているだけで広瀬に近づけそうな気になる。
だが、そんな風に話をしながら、東城は内心、もし、仮に、広瀬に会ったとして、自分はどうするのだろうか、とも思う。
彼に何を言うのか。何を言えるのか。
広瀬に会ったら。自分は、彼を離せなくなる。
広瀬に会い、彼が自らの意思で東城から去ったことがはっきりしたら、再会した後も、去ろうとしたら。
そうしたら、自分は広瀬をどうするのだろうか。
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