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第13話

アンディ・ミツモリはアメリカ在住の日本人だ。 本名は光森安彦という。 アメリカで知り合った日本人はみんな勝手に自分でミドルネームをつけているので自分もそれに習ってアンディという名前にした。 友人たちは皆自分のことをアンディと呼んでいる。 大学からアメリカに来て、職もアメリカで得ることができた。 ベンチャーキャピタルのスタッフで働いていたある時、声をかけられ今の会社にいる。 記憶のデバイスの研究開発をしているベンチャー企業ということだった。光森の仕事は、投資会社に業務内容を説明し、投資を促すことだった。 光森は、白や紫の花を中心とし金色の長いリボンが巻かれた大きな花束を両手で慎重に持ち、エレベーターを降りてペントハウスに入った。 そこは、会社が借りているか所有しているかしている場所で、室内は簡素なつくりだがみるからに金がかかっていそうだった。 光森が集めている資金が必ずしも研究開発費にあてられているとは限らないと思わせるような場所だ。だが、そんなことは光森には関係のないことだ。自分はじぶんの業務をこなせばいいのだ。 足を進めると広々としたリビングに数人の男がいた。 「アキ」と光森は呼びかけた。 男と向き合ってと話をしていた青年がこちらに視線を向けてきた。その灰色の目に感情が宿ったところを光森は見たことがない。 彼は、顔かたちが整っていて、感情もみせないから、作り物めいた雰囲気がある。 光森はその青年が広瀬彰也と言う名前の日本人で幼い頃から記憶のデバイスの実験の被験者である、ということしか聞いていない。 光森はリビングにいる男たちに広瀬と二人きりになりたいと示し、仕事上の話があるのだと告げた。

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