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第17話

「それで、忍沼さんに頼みたいことがある」 「なに?」 東城は言った。 「すぐに、広瀬やミツモリの泊まるホテルを探して欲しい。それと部屋番号と、ルームキーが欲しい」 「ルームキー」と忍沼は最後の言葉を繰り返した。「東城さん、それは、どういう意味で?」 「そのままだ」 「ホテルのルームキー?」 「何度も言うとでてくるのか?」 「そんなわけないだろう。だいたい、僕がどうやってそんなものを手に入れるんだよ」と忍沼は言う。「ホテル探すのだって大変なことだ。もし、ホテルがわかったら部屋番号くらいなら、東城さんが自分で聞き込みすればいいじゃないか。警察手帳みせて」 「今、経産省に出向してるから身分証は自由に使えないんだ。そもそもこんな私的なことで警察の権限を使うことはできない。それに今時ホテル側が警察手帳ごときで面識もない警察官に部屋番号教えるわけないだろう」 「そういう正論を口にする一方で、僕に部屋番号だけじゃなく、ルームキーまで頼んでくるっていうのが、信じられないんだけど」 「最近のルームキーはICカードだろう。忍沼さんの技術力があればなんとかなるんじゃないのか?」 忍沼は、呆れた顔をしたまま返事をしない。 「広瀬を菊池たち実験の関係者の元から連れ戻したい。それができる可能性があるんだ」 「すごい殺し文句だね。それを言われたらなんでもするって思ってる?」 「実際、そうだろう」 「否定はしないけど。東城さん、あなたの依頼は犯罪行為だよ。共犯になるんじゃないのかな」 「悪いことを依頼しているという認識はあるが、こんなこと誰も気づかないようにするし、そもそも、証拠も犯罪もはっきりしないような面倒なことは、警視庁の誰も捜査したりしないから、大丈夫だ」 「うわー。なんか、すごいことを聞いてる気がする」忍沼はそうつぶやいた。 迷っていたようだったが最後にはうなずいた。「わかった。やってみるよ。あきちゃんを助け出すチャンスだからね」 それから彼は、条件を出してきた。 「全部、最速でやる代わりに、当日は融も一緒に行くことが条件だ」 「元村融?」と東城は聞き直した。 「あきちゃんを見つけたら、東城さん、僕に内緒にして、あきちゃんをどこかに連れて行って隠してしまいそうだから」と言った。「悪いけど僕は、どんな控えめに言っても東城さんのこと信用してるとは言い難いからね」 「そりゃどうも。信用してくれてなくてもいっこうにかまわないが、元村融は、今どこにいるんだ。拘留されてるんじゃないのか」 「融が拘留?なんで?」 「この前の事件で、人を刺しただろう。起訴されてないのか?」 「融が人を刺した?何のこと言ってるのかわからないな。融はあの事件の後しばらく入院して、それから、普通に生活してるよ」忍沼は人差し指を立てて唇にあてるしぐさをした。「東城さん。融のことは、あまり詮索しない方がいい」 この話には、もともと胡散臭い奴らだと思っていたからそれほど驚きはなかった。元村融には裏に強力なスポンサーでもついているのだろうか。 忍沼は続ける。「それで、融を同行させるのは?」 「わかった」と東城は言った。「好きにするといい」

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