19 / 159

第19話

二人は無言で部屋に向かった。 忍沼からは3部屋分のカードキーを受け取っている。 3部屋は横並びの部屋で、真ん中が広瀬の部屋だろうと推定していた。いなければ、すぐに他の2部屋を開けることにしていた。 反撃される可能性を考えると、元村融が一緒にいるのはよかった。小柄だが体術に優れている元村は争いになれば頼りにできるだろう。 ホテルの廊下には誰もいなかった。 東城は、部屋番号を確認し、カードキーをさした。 小さな音をたてて、ドアが開く。チェーンロックをかけていることを想定し、カッターを用意していたが、不要だった。 ドアはあっさりと開いた。中は灯りがついていて、静かだった。 誰もいないのだろうか。警戒しながら中に入る。広い部屋だった。 空振りか。 他の部屋へ移動することを考えながら歩く。 ふいに、テーブルの向こうの床からうめき声がした。 東城は反射的に駆け寄った。元村融は、周囲に目を配っている。 男が床に倒れていた。 頭からわずかに血が出ている。 東城は膝をついて男の顔を確かめた。 「広瀬じゃないな」と元村融が言った。 彼は、慎重にトイレと浴室、クローゼットをあけ、中に誰もいないか確かめている。 「救急車」と東城は言った。 息はあるが意識はない。重傷だ。このまま放置していたら命にかかわるかもしれない。 元村が呆れたように言った。「冗談だろ。ここから逃げた方がいい」 「それは、できない。フロントにも連絡する」 「広瀬が隣の部屋にいるかもしれないぞ」 「わかってる」そう言いながらも東城は救急に電話をかけた。 ホテル名と部屋番号を告げる。 フロントにも電話を入れた。 「俺は出るぞ」面倒ごとはごめんだ、と元村は言い出て行った。 東城は彼を止めなかった。

ともだちにシェアしよう!