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第26話
家に入ると、廊下に灯りがつく。
歩きながらポケットで振動するスマホを取り出した。
宮田からだ。とるのをためらっているうちに電話は切れた。
画面にはいくつも入っている着信が表示される。宮田から、忍沼拓実から、知らない電話番号から。元村融からだろうか。
どれも繰り返し、何度もかけてきていた。
東城はリビングの灯りをつけた。
ソファーが目の前にある。
手に持ったスマホをローテーブルに叩きつけ、壊したい衝動にかられた。
スマホだけじゃない。このソファーもリビングの家具も、この家全体も、なにもかもだ。
何だってあの時、あの男を助けることを優先させたのだ。
元村融が言った通り、隣の部屋に広瀬はいたかもしれない。ホテルの別な場所にいたかもしれない。仮にホテルにいなかったとしても、あのままホテルの中で待っていたら、彼は戻ってきたかもしれない。
どうして、あの男を助け、ホテルを騒がしくさせ、自分は、身内の警察に捕まえられるようなことをしてしまったんだ。
後悔が、黒い色で目の前を見えなくしていく。
唇を噛んで自分への怒りをやり過ごそうとした。心の底から湧き出て、自分を責める声だ。
だいたい、広瀬が銃を持っていたあの時、どうして止めたりしたのだ。
両親を殺された彼の復讐を、浅い正義感で潰してしまうなんてことを、なぜしてしまったのか。
さらに以前のことへと後悔と怒りが続く。
広瀬は重傷を負っていた。
崖から落ちたとか言い訳をしていた。
あの怪我をしていた時、広瀬の様子は明らかに異常だった。
なぜ、彼の話を聞かなかったのだろうか。
時間を割いて彼と一緒にいたら、こんな風にどこかに行ってしまうようなことにはならなかっただろうに。彼のことだけを考えていたら今のような結論にはならなかった。
振り返ることばかりだ。広瀬のことを考え続けていたのに、どうして、土壇場になって、あんな見ず知らずの男を助ける選択をしてしまったのだろう。
広瀬に会うチャンスがなくなっていく。
指の先に、彼の幻想があり、すぐに届きそうだった。
彼はいつものように静かにソファーに座っていた。東城に気づくと、笑顔になり、普段はほとんど現れない感情をこぼれさせていた。
だが、すぐに彼は消え去る。ここにはいないのだ。
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