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第30話

ホテルが立地している街のことはあまり詳しくはない。 裏通りに入ると不利になりそうなので、広瀬は大通りを走った。 信号の変わり目を無理に渡ったりしているうちに、振り返ると、あの男の姿はなかった。かなり長距離走ったので、引き離すことができたのかもしれない。 広瀬は走るのをやめて歩き出した。 誰だったのだろうか。 男は広瀬の顔を認めると、すぐに追いかけてきた。 ということは、広瀬の顔を知っていると言うことだ。こちらは覚えのない男だった。 かなり長時間歩いていた。喉が渇いた。お腹もすいてきた。 歩きながら迷ったが、我慢できなくなってきたので、広瀬は、大通り沿いにあったファミリーレストランに入った。 久しぶりの日本での食事だったが、落ち着いて食べることはできなかった。 店の入り口に目を配り、入ってくる客の顔を確認した。 店員が注文を取りに来た時も料理を持ってきたときも、自分の顔をジロジロと凝視しているような気分になる。 自分の外見は変わったところはないはずだ。 ここの店員や客たちが、広瀬を追ってきたあの男の仲間なんてことは絶対にない。 だが、周囲の人が動くたびに、自分を見たり、自分のことを話されているような気分になる。 気のせいだ、落ち着け、と何度も言い聞かせた。神経質になりすぎだ。

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