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第32話
店の外に出ると、また、歩き始めた。
周囲を見回すとそこは見慣れた日本の街だった。
湿ったっ空気も、統一感のない店の看板も、走る車も、全てが戻ってきたかった場所だった。
歩きながら、倒れたそのまま光森をおいてきたことや、金を盗ったことに、自分の罪悪感が全くないことに気づいた。
光森は倒れていた。
あのまま放っておいたら、危険かもしれなかった。
それはわかっていたが、広瀬は自分を優先させ、さらに、冷静に頭を働かせて金とクレジットカードまで盗ってきた。
ファミリーレストランで食事しているときも光森のことは頭になかった。終わった後は平然とクレジットカードを使った。
光森を気遣い、申し訳ないと思う感情が自分の中で見当たらなかった。
自分はどうかしてしまったのだろう。記憶のデバイスを使ったり、東城を撃ってしまったりするうちに罪悪感はなくなってしまったのだろう。
そもそも最初から自分は感情が他の人に比べて薄いんだろう。子どものころからよくそう言われたし、罪悪感や感情なんて無い方が楽だし、効率的だ。
今回だって、可哀相とか、気の毒とか思っていたらホテルから逃げ出せなかった。こうして日本に来ることだってできなかっただろう。
じゃあ、どうして、東城に会いたいと思うんだろうか。
彼のことばかり考えて、夢にまでみるのはなんでだろうか。これは感情じゃないんだろうか。感情じゃないんだったら、なんだろう。
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