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第35話

店員はリモコンをカウンターに置くと、店の奥に入って行った。 しばらくしてから、ビニール袋を3つほどもって戻ってくる。 それぞれにスマートフォンが入っていた。表面には小さなシールが貼ってあり手書きで金額も書いてある。 傷だらけのものもあれば、かなり古いタイプのもあった。 この店は、身分証がなくても通話ができるスマートフォンを売っている。詐欺や脅迫、金の受け渡しなど犯罪者が使うのだ。 使える期間は金額によって変わる。広瀬の手持ちの現金では、数日使える程度だろう。 「一番動くのはどれ?」と広瀬は聞いた。 店員は、傷だらけの端末を指さした。 「じゃあ、それを」 広瀬はポケットから金を取り出し、渡した。また、少しだけ手が震えていた。 「電池は?」 「充電器は別売り」と店員は言った。高い金額をふっかけられそうな口調だ。払えそうもなくて黙っていたら、 「なくても一日くらいはもつんじゃない」と言われた。 広瀬はうなずいた。 ビニール袋に入ったまま、電源を入れると確かに起動する。電池は100%を表示していた。 広瀬はスマホをもって店を出た。これで現金はほとんど使い果たしてしまった。 だけど、これで電話がかけられる。

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