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第40話
急いで車を出し、朝の街を制限速度ギリギリで走らせた。
東城は電話が告げた場所に向かっていた。
平日の道路はところどころで混んでいて、ハンドルを握りながら苛立ちを抑えられなくなる。
彼に電話を切るな、と言ったが、広瀬は、小さな声で電源がなくなるかもしれないから、と答えた。
それで仕方なく通話は切っている。
信号で車が停まるたびに、電話をかけたくなった。
つながっていないと、また、消えてしまいそうだ。
指定された場所は、北池署管内の場末の風俗街だった。一日中、いつでも雑多な人が行き交い、誰が何をしているのか気にしない街だ。
朝から開いている飲み屋で呑んでいる男女がいるかと思うと、スーツを着込んで仕事の電話しながら忙しそうに歩いているサラリーマンもいる。
ビルの側面には白い歯を見せて笑う政治家のポスターに並んで貼られているアルコール飲料や風俗のチラシは破れかかってヒラヒラと今にも飛んでいきそうだ。
アスファルトも隅の方は亀裂が走り、雑草が生えている。
北池署に勤務していた広瀬には土地勘のあるなじみの場所なのだろう。
手近なコインパーキングに車をとめると、東城は走って広瀬がいるはずの路地を探した。
なんだって、よりにもよってこんな薄汚いごちゃごちゃしたところにいるんだ、と思う。他にも隠れるのに適切なところはいっぱいあるだろうに。
細い道を探しながら行き、通り過ぎたことに気づいて、また、戻った。
指定された場所は、路地と言うよりも建物と建物の隙間だった。狭くて、暗い場所に東城は入った。
そこに、彼が、立っていた。
こちらをむいて、身じろぎもせずに。
東城も立ち止まった。
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