41 / 159
第41話
手を伸ばすと、広瀬がいた。そのままの、広瀬自身。
整いすぎた顔かたちと美しい灰色の双眸。細い肢体。
触れようとして、指先が震える。
やっと頬に触れると、確かにそれは実在している。
手のひらで頬をなでた。
柔らかで、すべらかな肌だ。昔、肌の手触りが好きだと言ったら、きょとんとしていたことがある。
触れるだけでなく、なにか言わないと、と思った。
彼に告げなければ。
今、この瞬間に必要な言葉を、言わなければ。
頭の中には感情が押し寄せ、浮かぶ言葉は、すぐに消えていく。
前髪を手のひらで撫で上げる。白い額だ。透明な大きな目が、こちらを見ている。
その中に自分が映っていることを確かめる勇気がなかった。
「髪、伸びたな」と、結局はどうでもいい言葉を口にしていた。「でも、本当はこれくらいの長さの方が、お前には似合うだろうって思ってたんだ。ずっと。言わなかったけど」
広瀬がまばたきをした。
右目から涙が転がり落ちたような気がした。
暗くてよく見えなかったけれど。
東城は彼を自分の胸に抱き込んだ。背中に腕を回り、力を入れて、抱きしめる。
幻想ではなく、自分の前にいることを全身で確かめて、そのまま、何もかもを終わりにしたくなった。
ともだちにシェアしよう!