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第43話
車の中で東城はほとんど口をきかなかった。
どうしてあの時自分を撃ったのか、なぜこんなことになったのか、といった質問はなかった。
他の会話もない。ホテルにいたことも、北池署管内の裏町にいた理由も聞かれなかった。
東城が今までどうしていたのだろうか。仕事で忙しいはずの彼が、今朝の広瀬の電話にでてすぐにここに来られたのはなぜだろうか。
広瀬からも何も言わなかった。彼に何を話し、何を訊ねたらいいのかわからなかった。
会ってしまったら言葉が探せない。
彼が近くにいるだけで、胸がつまるようだ。ずっと感じていた息苦しさとは全然違う。でも、声も出ないくらい苦しい。ここに一緒にいるだけなのに。
車は二人の家には向かってはいなかった。湾岸を通りすぎていく。
信号で停まるたびに、彼は左手を伸ばしてきた。頬を伝っていた涙を指で拭ってくれて、髪や身体に触れてくる。
自分がいることを確かめてくれているのだ。
東城は、怒っていないのだろうか。あんなふうに傷つけてしまったのに。彼の表情は複雑で、広瀬にはなにを考えているのかさっぱりわからない。
窓の外の景色は変わり、建ち並ぶビル街から住宅地に変わった。海沿いの街になる。
「もう少しでつくから」と東城が言った。
ここはどこだろうか。もう少しというのは、どこを目指しているのだろうか。
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