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第51話
東城は呆れたように言った。
「広瀬。話す?何言ってるんだ。のこのこ話しに行って出てみろ。すぐに逮捕されるぞ。銃刀法違反や偽造パスポートで出入国だけでも、懲戒免職なんてもんじゃすまない」
「わかってます」
「お前は、なにもわかってない」そう東城はきっぱりと言った。「逮捕されたら、その後、どうなるか。近藤理事の事件はかなり闇が深い。警察内部でどんな扱いになっているかわからないんだ。お前に罪を着せるってことだってあるかもしれない」
「大丈夫です。対応する覚悟はあります」
今回のことで、自分だけが無傷でいられることはありえないだろう。それは十分に考えているのだ。逃げ隠れするのは、時間延ばしに過ぎない。
東城はしばらく黙っていた。それから彼は言った。
「俺にはない」
「え?」
「お前が、戻ってきたのに」と東城は言った。「また、どこかに行かれる覚悟なんてない」
口を横に引き結んでいた。
「この家にいれば、俺の前から、消えることはない」
東城は広瀬から視線をそらしていた。
彼の手が固いこぶしを握っている。こんな彼を見るのは初めてだった。
広瀬に向かい合わないなんて。
彼の表情が心配になって広瀬は、彼の横に座った。
彼に手を伸ばそうとしてひっこめた。触れたら、強い静電気が起こるみたいに、痛みがお互いに走りそうだった。
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