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第53話
「あの時、東城さんを撃ってしまって、暗闇の中で、一人でいて、苦しくて苦しくていました。俺が撃って傷つけてしまったのに東城さんのことだけ考えて、会いたいって思ってました。責められてもいいから、一目だけでも会いたいって。あなたのこと、ずっと想って」
涙が次々にあふれてくる。
「ただ会いたいって、それだけでした。あなたが俺のことどう思って過ごしていたかなんて考えてなかった。自分が会いたくて会えないのが辛い、それだけで」
こんなに自分のことを想ってくれている人を、裏切り苦しめたのだ。自分は彼に責められたら謝罪して、必要とされなければ去ろうなんて思っていた。
自分のことしか思いが及ばなかった。
今、会ってみて、気づく。自分は彼のことをどれほど考えていたというのか。会いたいと思っていただけだ。
「ごめんなさい」と広瀬は何度も言った。
涙がとまらない。感情のどこかが壊れてしまったように、堰を切り流れていく。
東城は、広瀬の話を黙って聞いていた。
それから腕を伸ばし、肩に回し、胸に抱き込んだ。
手が頭を優しくなでる。泣いて震える肩から背中にかけても、なだめるように大きな手が行き来する。手も身体も温かい。
その温もりも涙を誘う。安心させてくれようとしているのだ。いつも東城はこうして優しく受け止めてくれているのに、それを想えない自分の不甲斐なさが苦しい。
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