54 / 159
第54話
長い時間、東城は広瀬を抱き、彼が落ち着くのを待ってくれた。
深く息を吸って、はいて、広瀬はだんだんに涙をとめた。
「お前、俺と今日会ってからずっと泣いてる」と東城は言った。「俺にやっと会えたんだから、うれしくて泣くのは当たり前だって思ってたけど、自分を責めてそんなに泣いたりするなよ」
東城は広瀬を抱きながら片手を伸ばし、ソファーの近くにあったティッシュを大量にとった。広瀬の顔をあげさせ、涙をふく。
「話をしよう。お前がどうして急に消えたのか。ホテルで何があったのかまで。全部教えて欲しい。俺も今までの話をしたいし」
広瀬はうなずいた。
止まったはずの涙がまた頬に転がり落ちる。東城はそれもティッシュで拭いた。
彼は広瀬の額に軽くキスをした。
「とりあえず、話する前に、何か食おう。ここは魚が美味しいらしい。デリバリーしてくれるいい店がいっぱいあるって管理人が言ってた」
そう言って深い優しい笑顔をみせてくれている。
「ご飯をお腹いっぱい食べてゆっくり眠れば、大抵の悩み事なんてたいしたことじゃなくなるっていうだろ。お前の胃袋も満たされれば、涙もとまるよ」
彼はそう言うと今度は目の端に唇を落とした。
今はまだ、東城の言葉に言い返せる気分じゃないけれど、食事をしようと言う提案は悪くないと思った。
ともだちにシェアしよう!