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第56話

東城が家の中に何があるのかを探そうというので、広瀬もついて回ってみた。 東城は家中の押し入れや棚、引き出しをあけていった。ほとんどの部屋の棚はからっぽで、花瓶どころかゴミさえもみつからなかった。管理人が徹底的にきれいにしているのだろう。 探索中にダイニングの棚の引き出しをあけたら、クリーニングから戻ってきた様子のビニール袋に入ったテーブルクロスが何枚か出てきた。 この無機質な家には珍しく、彩が華やかで細かな刺しゅうが施してあった。明るい色ばかりだ。その中でもとりわけ鮮明な濃いオレンジのテーブルクロスを東城は選んだ。 二人で端をそれぞれもってテーブルの上に広げてかけてみた。やっと、少しだけ部屋の雰囲気が明るくなった。 そうこうするうちに、玄関のチャイムが鳴った。東城が確認すると管理人さんがデリバリーを持ってきてくれたのだった。 管理人は玄関で東城に食事を渡すと、帰って行った。どんな人物なのかは広瀬はみなかった。 テーブルの上に並べられた料理は、管理人がえりすぐったものということで、魚介系の料理が中心で、サラダや焼きたてのパンもある。 冷えた飲み物も買ってきてくれていた。東城は、クーラーボックスに氷を入れ、白ワインを開けた。 ダイニングに食べ物のいい香りが漂う。明るいテーブルクロスに色合いの美しい魚介の料理が並んだ。 広瀬は、濃い色のスープをスプーンですくい一口飲んだ。温かいスープは優しい味でじんわりと身体にしみてきた。 「美味しい」と思わず口にしていた。 東城もスープを飲んでうなずいた。 「管理人さんがこの魚介のスープは絶品だって言ってた。わざわざこれを食べにこの界隈にくる人もいるくらいだって。確かに遠出してくる価値があるな」 たくさん持ってきてくれたから、欲しいだけ食べるといいよ、と彼は言った。 広瀬は、スープを飲み、サラダを食べた。どれも美味しい。栄養を補給するため以外に食事をするのは、久しぶりだった。長い間食事は身体を維持するためだけで、味はほとんど感じられなかった。 東城は食事をする自分を優しい目で見て、大皿の料理をとりわけでくれる。 ずっと、こんな風に一緒に食事をしていた。向かい合って食事をするのも、東城がグラスにワインを注ぐのも、当たり前のしぐさだ。 広瀬はその日常を噛み締めた。

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