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第58話

歯に埋め込む記憶を鮮明にできるデバイスのこと。幼い時に参加したデバイスの実験のこと。 岩下教授が亡くなった後で記憶のデバイスが設計図とともに家に送られてきたこと。記憶のデバイスは完成しており、その設計図は量産化のためのものだった。 そして、ある夜、広瀬は自分でそのデバイスを歯に装着した。 すると、殺された両親の懐かしい記憶が蘇り、手放せなくなってしまった。 記憶のデバイスが見せる優しい両親の思い出話をする彼の声は、小さく消えそうだった。 東城が、もう話さなくていいと止めそうになるくらい。 東城は、広瀬の話にできるだけ口をはさまないようにしていた。 ただ、時々、いつあったことなのか、とか、誰がそのことを知っているのかといった事実関係は確認した。 それ以上のことを聞いてはいけないと思った。理由を尋ねたり、責めるようなことは口にしてはだめだ。 広瀬は十分すぎるくらいに自分を責めているのだから。さっきの涙でそれはよくわかっている。 そして、彼の声がつまるたびに、自分も苦しくなる。

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