59 / 159
第59話
だが、話が、滝教授の研究所の帰り道で堀口たちに襲撃を受け、堀口の配下の竹内に乱暴され口淫を強要されたことに話が及んだ時、声をあげていた。
「お前、なんでそれを言わなかったんだ」
崖から落ちてひどい怪我をしたと言っていた。
あの時、彼が乱暴をうけのではないかと疑念をもったのだ。広瀬は強く否定し、話はそれきりになった。自分の疑いは間違っていなかったのだ。
「どうしてそんなひどい話を黙ってたんだ」
広瀬の心が暴力でひどく傷つけられたことを、知らされなかったなんて。
広瀬は感情が現れにくい大きな目を東城に向けている。
「お前が、乱暴されたのを知らないでいたのか、俺は」
「東城さんに話したら、どうなるのかわからなくて、怖かったんです」
「怖かったって?俺が、乱暴した竹内を殺しに行くとか?それが、怖かったのか?」
広瀬はうなずいた。「もし、俺のことで、竹内に仕返しをしたら、東城さんの将来がなくなります。そんなことになったら、必ず後悔することになります。それに、仕返しできなくても、思いとどまってしなくても、頭の中には残る。嫌な記憶だけが残って、だんだん、俺のことを好きでいなくなる。俺のミスでおこったことだから、自分で解決しようと思って」
「俺のことを、信用できなかったってことなのか?」
「東城さんを失うことが怖かったんです。話したら、なくなってしまいそうだった」と彼は言った。「こうやって話すとわかるんです。あの家。一緒に暮らしてた家。俺には夢の家だったんです。庭木に花が咲いていて、居心地がよくて、家族がいて。もし、話したら、壊れてしまう気がして、それが怖かった」
ともだちにシェアしよう!