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第62話

「子どもの頃にキーワードみたいなものを言われて、それを聞くと命令にしたがってしまうなんて、小説や映画にはでてきそうな設定だけど、本当にあるのかどうか、信じられないな。だいたい、催眠術なんて本当にあるのかよ。テレビのバラエティ番組くらいでしかみたことないし、あれだって、ヤラセなんじゃないのか」 「俺の中で、何が起こっているのかはわかりません。記憶のデバイスのせいかもしれません。東城さんを撃った後で、菊池が現場に来たんです。それからのことはよく覚えていませんが、彼に言われるままについて行って、気がついたらアメリカにいました」 「今でも記憶のデバイスを歯に入れているのか?」 「いえ」と広瀬は首を横に振った。 「はずしているのか?」 「はい。ついてからしばらくして、デバイスははずしたんです。俺がはずしたというよりも、はずされた、というのが正しいと思います。俺が、もしデバイスをしていたら、何でも記憶してしまって、何でもわかってしまう。犯罪がらみのことも重要な会話も記憶して、誰かに話をされるのを警戒したんと思います。多分」 「見ますか?奥歯のところ、なにもないのわかりますけど」 「いや、いいよ」と東城は首を横に振った。 「はずしたんですけど、本当は、記憶のデバイスは、ずっと装着している必要はないんです。つければいつでも思い出せるから」 「また、つけると同じ事ができるのか?」 「そうです。最初は経口の機能促進剤が必要ですけど、慣れればなにもいりません。記憶の出し入れは自分でコントロールできます」

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