65 / 159

第65話

話そうとして気づいた。会ったら話をしようとずっと思っていたのに、こうして向かい合うと広瀬に告げる言葉が少ない。 広瀬がいなくなってから今日まで、必死に探していたが、振り返るとほとんど何も覚えていないのだ。思い出したくないことばかりだからだろう。 広瀬は、静かに話を聞いて、それから口を開いた。 「怪我は?」 「怪我?」 「俺が、撃った怪我です」 「ああ」東城は服の上から肩に触れて見せる。「怪我は治ってる。母親たちがうるさくて、リハビリしろとか、あれ食べろこれをするなとか、ずっと言ってきてたけど、大人しくいうこときいてたら治ったよ。もう、痛みはない」 早口でそう言った。 広瀬がまた自分を責めるのが嫌だったのだ。この話題は避けよう。別なことを話す方がいい。 ところが広瀬は言った。 「見せてもらえますか?」 「なにを?」 「傷を」 広瀬の視線が肩にむいている。 「見て、どうするんだよ」と聞いた。 広瀬は無言だった。 東城の問いかけが聞こえないのか、答える気がないのか。こうやって話が途切れるのは、前と一緒だ。広瀬は自分勝手に黙ったり話したりする。 東城にはなんだかよくわからない以前の広瀬に戻ってきているのだろう。 東城は広瀬からの返事を待った。だが、広瀬も東城が傷を見せるのを待っているようなので、諦めた。

ともだちにシェアしよう!