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第68話

広瀬は説明した。菊池をかばうわけではないが食事の量は十分だったのだ。「食事はでていたんですけど、食べられなかったんです」 東城が広瀬の胸を滑っていた手を止める。 「食べられなかった?」 「はい。喉をどうしても通らなくて」 「お前が?」 顔を見ると大袈裟に目を丸くしている。 「何があろうと飯だけは食うと思ってた。苦手な相手でも美味い飯があると聞けば会って遠慮なく食べてたじゃないか。どうしたんだよ」 広瀬は黙った。 久々に会って穏やかな気持ちになっているときに信じられないが、バカにされているのだ。 確かに自分はよく食べる。あまり多くを食べてはいけないようなタイミングでも気づかず食べていることがあるらしい。 でも、頻繁にではないけれど、食べられないこともたまにはあるのだ。 返事をしないでいたら東城は笑いながら言った。 「ごめんな。俺に会えなくて食が細くなったんだってことを、確認したかっただけなんだ」 頭をいい子いい子というふうになでられた。 むっとして言い返した。 「東城さんは痩せてませんね」 東城は手を止める。 「むしろ、太ったんじゃないですか」 広瀬は手を伸ばし彼の腹をなでた。硬く締まっているがわざとそう言った。 「体重はかわってないよ」 「そうでしょうね」 顔を見ると東城は笑ったままだ。おまけに彼は広瀬の耳朶を軽く噛んだ。 「体重で愛を測るのか?お前らしいけど。愛を証明するというのは難しいことだな」 そう言いながら機嫌のいい顔をしている。広瀬は言い返せなくなったので東城の口を耳から押しのけた。 だが、唇へキスをねだられるとそれは避けなかった。 優しい長いキスを受けながら、おなかがすいたと思った。

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