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第69話

シャワーを浴びてキッチンに行くと、東城が着替えていた。 「買い物に行く」と東城は言った。「ここでしばらく生活するからには、いろいろ買っておいた方がいいからな」 車で30分くらいのところに大型のショッピングモールがあるということだった。 東城は真顔になっている。「外に出さずにここにいて欲しいけど、お前をこの家に一人にしておくのも嫌なんだ」悩んでいる顔だ。 「行きますよ」と広瀬は答えた。自分も息詰まるこの家に一人でいるより、東城と一緒にいたい。 だが、支度をしようとして外出するのに着る服がないことを思い出した。仕方ないのでここまで着てきた服に着替える。 広瀬の立ち姿をしげしげと眺めて東城が言った。 「服も必要だな。お前が今着てるの、どこで買うとそうなるんだってシャツだな」 そういわれていささか驚いた。「そうですか?」 「似合わない」と東城は言った。「なんだってそんな服を?」 「似合わないですか」と思わずオウム返しに言葉が出てしまった。 自分ではそうは思わなかった。これはアメリカを発つ前にビューレンが金にあかせて買ってくれたのだ。広瀬でも知っている高級ブランドの店で、日本に来る前に何着も買っていた。派手めの色合いではあるが、気になるほどではないし、サイズもぴったりだ。店の言い分では流行りのスタイルらしくよくお似合いということだった。 「俺の好みじゃない」と東城はあっさり言った。 出た、と広瀬は内心思った。 東城さんの好みじゃないということと似合わないと言うことはイコールなのだ。相変わらずの王様発言だ。 似合う似合わないじゃなくて、自分以外の誰かが選んだ服を広瀬が着ているのが気に入らないのだ。そこは素直にそう言えばいいのに。可愛くない。 そんな広瀬の内心を知らず、ショッピングモールで買おうと東城は続けた。あそこにはなんでもそろっているって管理人さんが言ってたから。

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