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第71話
それから、東城は店員に案内されて服を見て行った。
時々広瀬を振り返り、「これはどうだ?」とか見せてくる。だが、ほとんど返事を聴くこともなく、自分で選んでいた。
まあ、広瀬も生返事しか返さなかったのだ。服なんてその辺にあるものでサイズがあうものを適当に買えばいいのに、と常々思っている。
店員も最初は広瀬に気を使っていたのだが、そのうち、東城としか話さなくなっていた。広瀬の返事は張り合いがなかったのだろう。
東城は、店員に、あれを出せ、これはだめだと、注文ばかり言っている。ちょっとした襟のカットぐあいが気に入らないとか、微妙な色合いについて意見を述べている。
広瀬から見たらかなり面倒くさい客だ。だけど、店員は辛抱強く付き合っていた。店員もこんなうるさ型の相手してたら疲れるだろうな、と同情していたが、そうでもないらしい。
東城がああ言えばこう言うということで、どんどん服を出してくる。この二人連れは口も出すけど金も出しそうだと思われたようだ。
やっと選んだ数着をもって店員が試着室に案内してくれる。
彼も東城も広瀬が着た服に満足げだった。
「とてもよく似合ってますよ」と店員は嬉しそうに言った。試着室では小さい声で「モデルさんじゃないですよね?知らなくてすみませんが、なにか、芸能関係の人ですか?あの背の高い人マネージャーさんかなんかですか?」と聞かれた。
広瀬は即座に否定した。「注文が多くてすみません」
「いえ。楽しいですよ。なんでもいいです、って人よりお薦めがいがあります。それに、お客様、本当に似合いますね。身体の線がきれいで、手足のバランスがいいから、着こなしが難しいのでも、安心してお勧めできます」
「この服は?」と広瀬は自分が着てきたビューレンの買ってくれたブランド服を指さす。
店員は深くうなずいた。
「もちろんすごく似合いますよ」と店員は言う。「僕もこのブランド好きなんですよ」と彼は言った。
なんでも褒める服屋の店員の言うことだから半分以下で聞く必要はあるが、着てきた服が全く似合わないということはないだろう。
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