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第75話
広瀬はうなずいた。「ドラマもいいですね。壁の大画面でゾンビがぞろぞろでてくるドラマ見たら怖くて楽しそうですし」
「ゾンビ?」と東城は足を止めた。「それ、みたいのか?」
「人気のドラマなんですよ。前に少しだけ見たことがあって、時間ができたら続きを見たいと思ってたんです」
東城は、わずかの時間黙って考えていた。それから、くるっと方向を変えた。
「やっぱりやめよう」
「え?」
「プロジェクター、今度にする」
「そうですか」
「欲しかった?」
「別にかまわないですけど」
ゾンビのドラマを推したのが悪かったのだろうか。一緒に見て怖がりたくないとでも思ったのか。
ところが、東城は、広瀬を気にした様子もなくすたすたと歩いた。行った先には大きな花屋だ。
「ホームシアターは、家に帰ったら最新式ので作ることにする。今日は、花を買って帰ろう」と彼は言った。
家に帰ったらの意味がわからずとまどった。しばらく考えてやっとわかった。
東城が言っているのは、二人で暮らしていたあの家のことだ。緑に囲まれた静かなあの家に帰った後のことを彼は言っていたのだ。
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