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第86話

広瀬が、食事の手をとめて、静かに自分の方を見ている。 彼に電話の内容を説明し、質問もした。 「光森を殴った男は、彼と言い争いをしていたんだよな」 広瀬はうなずく。 「男は殴ったのではなく、二人は言い争いになって、ちょっとした押し合いをして、光森が、酔っていたために足をもつれさせて倒れたんです」 「相手は、20代前半の若い男」 広瀬はうなずいた。 「傷害事件じゃないって光森が言えば、話はそこまでだろうな。だが、なんで、俺を呼ぶんだろうか」と東城は言った。「その20代の男は、光森と何を言い争っていたんだ」 「わかりません。内容は聞き取れませんでした」広瀬は記憶を探っている。なにか、単語のようなものでも、断片だけでも思い出せればいいのだが、思い出せないようだった。 「男は殴ったんでもないのになんで逃げたんだ。光森がかなり酔っていたんなら、足をすべらせて、という話は筋が通るだろう。それに、ホテルでお前を見て、誰に電話をしていたんだろうな」 東城は質問しながら考えている。それから、広瀬に言った。 「所轄からの連絡は要請だったが、あの口調からしたら、命令だ。明日は、所轄に行かざるを得ない」 広瀬はうなずいた。唇がきゅっと横に引き結ばれている。 「心配しなくてもいい」と思わず明るい調子で言った。「どっちかというと、光森から直接話を聞けるのはチャンスだ。お前が見た口論してた男のこともわかるだろう。明日は、宮田が来る時間までには戻ってくる。宮田がお前を見てどんな顔するか見たいからな」 電話の画面を見ながら思いついたことを彼に言った。

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