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第92話
翌朝、目覚ましの電子的な音が鳴った。
東城が手を伸ばし、時計を止めた。
朝だというのに部屋は暗いままだ。
カーテンに覆われた狭い窓しかないこの部屋に、朝日は入らない。
彼は身体を起こし、広瀬の痩せて尖った肩に唇を落とした。
「行ってくる」
広瀬は、去っていく温もりが惜しくて、彼に身体をよせた。このまま手足を身体に絡みつかせたら、彼はどうするだろう。
そんなことは矜持が邪魔してできないのだけど。
広瀬の気持ちを知らず、「絶対にこの家をでるんじゃないぞ」と東城は言った。
家はぶ厚い壁に締め切られている。外に出ることもできない代わりに、誰も入っては来ない。
ここなら広瀬は安全だと東城は思っているのだ。広瀬は目を閉じ、うなずいた。
彼の熱が自分から去っていくのを黙って送った。
東城は、光森に会いに出かけて行った。
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