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第94話

「よかった。戻ってきてくれて」と彼女は言った。 優しい大きな目を自分に向けてうなずいている佳代ちゃんと、その後ろで、所在なさげで、困った顔になっている宮田を、家の中に招き入れた。 「すごくすごく、心配したのよ」と家に入りながら佳代ちゃんは何度も言った。 広瀬は「ごめん」と佳代ちゃんに謝った。 他に何を言えばいいのかわからなかった。佳代ちゃんはハンカチで目を抑えながら、しばらく広瀬を見て、それから、ようやく笑顔をみせた。 少し鼻声ながら彼女は言う。「広瀬くん、変わってなくてよかった。東城さんが、どれだけ広瀬くんを探してたか」 広瀬はうなずいた。佳代ちゃんに言われると改めて戻ってこられてよかったと思える。こうしてまた、二人にも会えた。 奥へと案内し、二人に、ソファーに座るようすすめた。 「お茶かコーヒーは?」と聞いた。 佳代ちゃんはソファーに座り首を横に振った。 「テイクアウトのコーヒー買ってきた」と宮田は言い、広瀬の分も含めた紙のカップに入ったコーヒーをリビングのローテーブルに並べた。 「ここに来るまでに、後をつけられたらまずいっていうから、あちこち寄り道したの」と佳代ちゃんが説明してくれた。「このコーヒーは、隣の市にあるチーズケーキが有名なお店のなの」 彼女は別な紙袋からホールのチーズケーキも取り出した。

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