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第96話

広瀬は佳代ちゃんに質問されるままに、答えた。時々宮田も質問を投げかけてきた。順を追って話をしたが、理由を根掘り葉掘り聞かれるうちに、どうしてこんなことになってしまったのか自分でもよくわからなくなった。 そんな会話を続けていると、リビングのドアが急に開いた。 東城が帰ってきたのだ。この家はドアを閉めると部屋の外の音は何も聞こえなくなる。東城が帰ってきたのに三人は全く気付かなかった。 宮田は、いきなり入ってきた大きな黒い人影にびっくりして、コーヒーを落としそうになっていた。 広瀬も驚いた。 東城が突然に帰ってきたのにもだが、その後ろから、もう一人入ってきたことに。 東城の後ろにいたのは、竜崎だった。一部も隙のないスーツ姿で、手には革のブリーフケースを持っている。彼は、三人に会釈をした。 リビングに入ってくると、「ただいま」と東城は広瀬に言った。それから宮田と佳代ちゃんに挨拶をした。 二人に笑顔を見せてはいるが、漂わせる雰囲気は固い。 竜崎をここに連れてくるのは本意ではなかったのだろう。 広瀬がこの家にいることは話していたようで、竜崎は広瀬に驚くこともなかった。 東城は、竜崎に座るようすすめ、自分も腰かけた。ソファーの背にはもたれず、両手を膝の上で組んでいる。 竜崎はブリーフケースを足元に置き、ソファーに腰かけた。それから、彼は広瀬に目を向ける。静かな視線だ。 「せっかくの再会を邪魔してすまない」と竜崎は言った。「君に依頼したいことがあって、東城に無理に頼んでここに来させてもらったんだ」 広瀬は、思わぬ竜崎の言葉に返事の言葉を考えた。だが、言葉を選んでいる最中に、横から宮田が口を出した。 「依頼ってなんですか?それもそうだけど、今日、東城さんは光森に会ったんですよね。どんな話になったんですか?」 途中から宮田は東城にも質問している。 東城が答えた。「光森は、自分が殴られたのかどうかはよく覚えていないと言っていた」

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